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八百歳の彼女 三

作者: 北こういち

 男を派出所に連れていったところ、すぐに連続婦女暴行の犯人だと判明した。この街では過去、半年の間に三件の暴行事件が起きていたが、すべてこの男の犯行だった。所持していたナイフは女性を傷つけるためのものではなく脅しのために使用しているとのことだった。確かに過去の事件の三件とも、被害者となった女性の身体にはナイフによる刺し傷や切り傷はなかったと特定されていた。だが、この男が婦女暴行の憎むべき犯人であることに違いはなかった。女性をナイフで脅した挙げ句、暴行する、全く持って許すことなどできない犯人であることに違いはなかった。

 せつなは派出所でさんざん事情聴取されたのだがひと段落すると、今度はさらに警察署へ移動し、そこでまた詳しく事情聴取を受けウンザリしていた。それなのに後日、またまた事情聴取のため呼び出しを受けることになった。

 せつなは警察署での事情聴取の際に、俺が彼氏だと、嘘の説明をした。彼氏である俺がたまたま通りかかったところでこの事件にたまたま遭遇したものとした。この事件に俺が極力関与しないように配慮してくれたのだ。だけど冷静に考えれば、中学三年生と社会人の、十六歳と二十六歳の男女の組み合わせは多少なりとも違和感がある筈なのだが。でも、そんな状況を払拭するくらい、取り調べの際の、せつなの常態の所作が妙に落ち着き払って大人びていて、自然で、とても中学三年生の十六歳のものとは思えなかった。その場に居合わせた警官達は誰しもが少女と大人の組み合わせに、何ら疑問を抱かなかったようなのである。

 すべての事情聴取が終わるとすでに二十三時を過ぎていた。もう隠れて警護する意味もなくなったため警察署からは一緒にせつなの家へ向かった。

「俺が彼氏って? ただの通りすがりの人で良かったのに……」

「バカね。それじゃ、何かと不都合な状況が出てくるでしょ。あなたは連邦捜査官だって言ったわね。おそらくは、極秘で来日しているんでしょ」

「極秘か……良くわかるね」鋭いなと思った。

「ところで、あの男はたまたま私を狙ったということで間違いないのよね?」

「それは間違いない。せつなが事情聴取を受けてる時間を利用して、局のデータベースに照会してじっくり調べたので間違いない。あの男は暴行目的以外の、政府や軍、宗教団体などあらゆるものに何の関与も認められなかった」

「そう……」

「何か、ほかに気になることでも?」

「……まあね」せつなはクスッと笑った。




 せつなの家に着くと母親が出迎えてくれた。既に事件の大まかな事情は把握しており、なぜかわからないが俺はせつなを助けた大恩人という存在になっていた。さらに、せつなは母親に余計な紹介をした。

「この人は、リュウ。今、私が付き合っている彼氏なの」

「はあ? それは便宜上、警察署でだけの話しじゃなかったっけ?」俺は慌てて否定した。

「リュウ! いいから上がって。ご飯食べるでしょ?」せつなは、俺の否定の言葉などはお構いなしにせき立てた。

 まあ、確かにお腹は減っていたので、素直に、晩ご飯と言うか、もう充分に夜更けになっていたので、夜食をご馳走になった。

「もう遅いので泊まっていって下さい」

 母親がしつこく引きとめるもので、断りきれなくて泊まらせてもらうこととした。ちょうど父親が今晩から出張でいないから男手があると安心できるということだった。

「じゃあ、リュウは私の部屋で一緒に寝よう」

「あ、いや、そういうわけにはいかないんじゃ」

「私のベッド使ってもいいから。私は床で寝るから」

「それは、益々まずいでしょ」

 母親はとってもフランクな人で、せつなと俺のやりとりを聞いても全然、意に介していなかった。

 結局、せつなの部屋で泊まらせてもらうこととした。隣りの部屋には祖母が寝ているとのことだった。

 結局と言うか当然、床には俺が寝ることとなった。ベッドで寝るのは当然せつなだ。パジャマに着替えたせつなは妙に色っぽかった。

「本当にいいのか? 俺だって男だぞ」

「私のこと抱くの?」

「バ、バカやろ……君は、本当に中学生なのか?」

「せつな」

「え?」

「また、君って言った」

「せつなは、こういうの慣れてるのか?」 

「こういうのって?」

「つまり、何だ、見ず知らずの男と一夜を過ごすとか」

「見ず知らず? じゃないでしょ? あなたは巻藁龍。私の危機を救ってくれた、彼氏でしょ。それに、私、処女よ」

 そう言うと、せつなはケラケラ笑った。

 程なくして、せつなはベッドで寝入ってしまった。

 何で、こんなにもすぐに寝られるのだろう、などと考えながら無防備に寝ているせつなを覗き込むとそこにはごく普通の十六歳の少女の姿があった。肩まである艶やかな黒髪。程良くスリムな身体。そして、初めてせつなに会った時に感じた懐かしさ。




 朝方、夢を見た。最近はあまり見なくなっていた夢だった。子供の頃は毎日のように、繰り返し繰り返し見ていた夢だった。それは十六年前の両親を亡くした日の夢だった。十歳の俺が両親と春休みに旅行した時のものだった。飛行機に乗り込もうとした俺は恐ろしくデカい外国人にぶつかり吹き飛ばされた。ソイツは俺を一瞥すらせずにさっさと乗り込んでいった。床に這いつくばっている俺を親切に抱き起こしてくれたのは、今のせつなくらいの年頃の学生服を着た女の子だった。優しい笑顔のその女の子が声をかけてくれた。

「大丈夫? 泣かないのね。エライ! 男の子!」

「……」

 何も答えられずにただ見とれていた。シャイな俺はその女の子に一瞬で恋していた。


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