桜と華
最初はアストライア編に出てきた、サクと華さんの物語です。
僕の名前は咲。VRMMO|《AQUA・WORLD・ONLINE》では『桜』という名前の前衛職だ。性別は男性。名前と中性的な容姿で、よく女性に間違われてしまうのが悩み。
まあ、自業自得な所もあるんだけどさ。いくらなんでも……。
「これは……、幾等なんでも無いだろう!?」
「はいはい、サクさん。動かないでくださいね」
心からの叫びは、華さんにあしらわれてしまう。
僕は今……、…………。……話さなきゃ駄目かな!?
…………、…………。
その……着せ替え人形にされています。
とある理由で自分の姿を見ないようにしているが、たぶんコスプレをさせられているか、フリルまみれになっているだろう。
「サクちゃん、次はメイド服とかどうですか~?」
ルビーさんが笑顔でそんなことを言ってくる。
「サクちゃんは止めてくれないかな? ……悲しくなってくる」
別にメイド服には突っ込まない。いや、嫌だけど、着たくないけど、約束なので仕方ないのだ。
『サクさん、貴女を一日お借りします』
全てはミストさんのこの言葉だった。
それから話が膨らんでいき、最後には『知り合いみんなでサク君を可愛くする』ということになっていまったらしい。
まあ、その代わりに友人の装備をそろえてくれたこともあるわけだし、約束は守らなければならない。俺の人権は完全に無視されているが。
「どうですか皆様! この完成度! このうつくしさ! やはり、私の目に狂いはなかったのですわ!」
華さんは出来栄えを見て興奮していた。
「でも、最後の一仕上げがあるので一度皆さんは席をはずしていただけませんか?」
そうやって他のみなさんを部屋の外に追い出した。……最後の仕上げって何だろう。
僕は鏡に映った自分の姿を見る。
「ふふ……」
無意識に頬が緩み。
「いやいやいや」
一瞬で我に返った。
そんな事をしているうちに華さんが戻ってきた。
「サクさん、最後の仕上げです。裏声って出せますか?」
確かこのゲーム、裏声も出せるんだよな……。
「たぶんできると思うけど……」
「でしたら、この帽子を持って、こうやってこうやって……」
華さんに指示されたことは、正直ものすごい恥ずかしかった。そんなこと男子にさせますか?
~数分後~
「……え? これをやるの? みんなの前で?」
「完璧ですわ!」
本人は悦に入ってるし……、聞いちゃいなかった。
「皆さん! もう入っていいですわよ」
外に追い出された皆さんが帰ってくる。
え、もう覚悟を決めなきゃいけないんですか? 嫌なんだけど、ものすごい恥ずかしいんだけど!?
「分かってますわよね……?」
分かっているから。華さん、その笑顔が怖い。
はあ……、俺はスカートを軽く摘み、(恥ずかしさで)頬を少し赤らめ、裏声をイメージして。
「……このような感じで、良いでしょうか……?」
「「「おぉ~~」」」
周りから拍手が帰ってきた。やめて、本当に恥ずかしいから! みんなも写真を取らないで!
「次は私ですね。行きますよ、サクさん」
ミストさんが僕の襟元をつかんで着替え室に引きずっていく。
「いーーーやーーー!」
部屋の中に僕の叫び声が響き渡った……。
「はあ……」
「サクさん、お疲れ様ですわ」
ニコニコと華さんが向かいの席に座る。
「まあ、自業自得なんだけど、……疲れた」
「ふふ、ありがとうございました。ところで、折り入ってお願いがあるのですが」
その言葉に僕は少し震える。……今日の惨劇を僕は一生忘れないだろう。
「今日の様な頼みじゃなければ、お願いされてもいい」
「では……」
華さんの口から意外な言葉が飛び出した。
「……私と、PTを組みませんか?」