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カレイドスコープ

作者: 広瀬直樹

「なあ、フク。教室に入って早々机に突っ伏して寝るのは、なぜなんだい? おーい」

 真っ暗な中でぺしぺしと頭を叩かれ、眠りに入るのを妨げられた。人が疲れているというのに、こいつは察することなんてできないのか、全く。

 フクはうなり声を発しながら顔を上げた。目の前には、椅子に座ってにやにやしているリュウがいた。

「あのなぁ、リュウ。人の睡眠を妨げるなんて、大罪だぞ」

 しゃがれた声で言うと、リュウは涼しい顔でメガネをかけ直した。

「もしそうなら、先生たちはどれだけの罪を犯しているんでしょうかね」

「とにかくおれは、ここのところ忙しいんだよ。バイト、バイトの連続。勉強なんて二の次だ」

 とにかく今はお金だ。お金がないとなにもできない。学校にいる時間を削ってまで働きたい。でも学業の方も危うく、ぎりぎり赤点を免れるかそうじゃないかのライン際まで差し掛かっていた。実のところ、今回の期末テストで赤点をとってしまったかもしれない……。

 リュウは、他愛もない会話で教室がにぎやかになっている様を見ながら呆れたように口をへの字に曲げた。

「フクの考えていることもどうかしてるよ。いっそのこと、大金をはたいて高級なプレゼントを用意してデートとかに行けばいいのに」

「そんなのありきたりだろ? それに、そんな方法で向こうが惚れてしまっても、こっちがいい気がしねぇよ」

 リュウはフクに向き直し、フクとリュウの間にある机の上に肘を乗っけてあごに手をついた。そして声高らかに言った。

「フクのような無知くんに一つ教えてあげよう。一つ目に、女を眩ますにはまず顔のかっこよさと体のスタイルが第一条件だね。二つ目に会話の内容の面白さで、三つ目には財産が決め手。以上だ」

 リュウはそう言いながら、空いている手で指を折って数を数えた。

 今まで十人以上告白されたという実績を持っているのは伊達じゃないな。女をよく知っている。女子ではなく、女を。だからリュウが大人のように見えてしまうんだな。

 それに比べおれは、是でも非でもない顔に、そんなに悪くない体の肉付きだ。刺々しい会話があるかもしれないけど、大して痛くないはずだ。でも、肝心な財産はなんとか稼いだつもりだけど、バイトで二ヶ月分働いたくらいでいい気になるのもばかばかしい。

 でも、彼女に見てほしいのは、そんなところじゃない。

「だから、おれはそんな安い女子を釣り上げるつもりはないって言ってんだろ」

「じゃあ単刀直入に言うと、そんな純粋な女子は少ないってことだよ」

 リュウに止めを刺された感じがした。胸の辺りが痛々しかった。フクはちらりと彼女の方へ顔を向いた。彼女は女子のグループの輪に囲まれていた。もし、彼女は実は純粋ではなく、そんな安いような女子だったら、プレゼント一つで変わってしまうのだろうか。

「佐久がそんなわけ……」

「佐久ちゃんに乙女心があるのはたしかだと思うよ。でも、そういう人って大概染められやすいからね」

 女子のグループはフクに気づき、くすくすと笑い始めた。そして女子の輪から飛び出た彼女がフクとリュウに近づいてきた。

「ねぇねぇ。わたしのことを見ながらなに話してたの?」

 割り込んできた彼女は、フクの幼なじみの佐久優花だった。ショートの髪型にこんがり色に肌が焼けていたが、猫みたいなくりくりとした目がとても印象的だ。

「なんでもない」

 ぶっきらぼうに二人同時に同じことを言った。

「えー。なによ、それ?」

「男はな、女に秘密にしたいことがあるのさ。佐久の前じゃ、ちょっとしゃべりにくいことなんだよ」

 佐久は怪訝な顔になった。

「ふーん、そう。じゃあお邪魔したら悪いから失礼するね。じゃあね」

 佐久はそそくさとフクとリュウから離れ、また女子のグループに混ざって行った。

 きょとんとしたフクの顔を見たリュウはため息を吐いた。

「ありふれてない言い方だったね」

「おれ、なんか悪いことでも言ったか?」

「君な、分からなかったのか? そんな言い方だと『お前なんか来るな。あっち行け』って言っているようなもんだよ。わざわざ、佐久ちゃんがフクのところに来たって言うのにねぇ」

「わざわざ?」

 リュウのそっけない態度に腹が立ってきたが、わざわざという言葉を強調したリュウに違和感を感じた。

「さて、バイトで疲労困憊のフクくんに一つ問題です。今日は何の日でしょう?」

「クリスマスイヴの前日だろ?」

「……フク、冗談だよな? クリスマスだよ。それもイブじゃない方」

 胃がガクンと落ちてしまったような気がした。

「今日!? 冗談じゃないよな!」

 フクの大声は教室中に響いた。周りにいた人はビクンとその場で小さく跳び上がり、目を丸くしてフクとリュウを見た。フクにとても近いところにいたリュウは思わず耳を押さえていた。

「冗談も何も、昨日はクリスマスイブで学校休みだったじゃないか」

「やべぇよ。まだ材料そろっていないんだよ!」

「へ? フク、材料はそろえたって言ったじゃないか!」

 リュウも驚きの表情を隠せず、思わず大声を出してしまった。

「今日ちゃんと働けば一ヶ月分の給料がもらえるんだよ。でも緊急事態だ。通知表をもらってからバイト行ってたら、絶対に間に合わない……。なぁ、リュウ。後生だ、一万円分貸してくれないか? ちゃんと返すから!」

 フクは両手を机に着き、頭を下げた。

 通っている高校は変わっていて、クリスマスの日に終業式があるという、世間一般の高校とは違ったやり方をしていた。そのせいで、今恥をかきながらもこうして頭を下げざるを得なかった。

「そんな大金、持っていると思う?」

 リュウは、苦笑いしながらお手上げですよという風に両手を挙げた。

 フクはその様子のリュウを見てため息を吐きながらおもむろに立ち上がる。

「しょうがねぇ。これも佐久のためだ。今からバイトに行ってくる」

「え、終業式はどうすんだよ?」

「先生によろしく言っといてくれ! じゃあ、また空き地で!」

 リュウに別れを言い、荷物を引っ掴んで猛ダッシュで教室から抜け出した。

 迂闊だった。今日がクリスマスということに全く気づけなかったなんて……。バイトやお金のことに目を奪われてしまってた。一刻も早く準備に取りかからないと、今までの努力が無駄になる。

 校舎から抜け出したフクは駐輪場にある単車に乗り込み、単車を唸らせながら学校の敷地内から出て行った。

 



 見通しがよくてとても広い空き地に、一人でせっせとケーブルをつないでいる姿があった。ありったけのケーブルを単車で運んで並べていたが、フクは満足していなかった。それどころか、成功しないんじゃないかと言う不安があった。

 フクはバイトを終えて、給料をもらうなりすぐに小さなデパートへ向かった。そしてありったけのケーブルを購入し、急いで空き地まで単車を走らせた。道中、佐久を見かけたが、今はそれどころじゃないし、まだ作ってもいない状態だったから声をかけることができなかった。向こうは気づいたかどうか定かではないが、今は完成させることに全力を懸けたかった。

 フクは空き地から離れた丘に登って、網のように作られたコードの羅列を見下ろした。その光景はとても惨めなもので、敷き詰めたコードは手のひらほどの小ささだった。フクは心底落胆していた。

 今日ばかりは絶対に成功したい。佐久と知り合って時が経ち、気づけばもう高校二年生だ。来年はきっと大学受験とかでお互いに忙しくなる。一緒にいられるのはもうわずかしかない。せめて佐久の心に残るようなサプライズを自分の手で作りたい。そう思って二ヶ月くらい前からバイトを始めた。

 念入りに計画したはずなのに、この有様だ。手のひらくらいの小ささで、いったいどれほどの大きさの感動を与えられるんだろうか。いや、そもそもこれくらいの光景を見て感動するはずもない。人の眼はごまかせない。

 フクは丘の上に立っている樹木に寄りかかり、沈んでいく赤い太陽の光を受けながらしばらく考えていた。お金はまだある。でも近場で売っているケーブルなんてない。この状況を打開してくれる物なんて持っていない。いったいどうすりゃいいんだ。いっそのこと、遠く離れた売り場まで走らせるか? いや、そんなことしていたら夜になっちまう……。

 思考を交錯させていると、空き地に通りかかった子供と老人が並べられたケーブルを興味深そうに見ていた。小さい子供は楽しそうにコードを踏んだり、引っ張ったりしていた。その様子を見ていたフクは怒鳴り散らした。

「おい! 勝手に触るな!」

 遠くから叫んだフクは猛ダッシュして丘から駆け降りた。ぽかんとしている老人と子供のそばまで駆け寄り、忠告を言った。

「線が切れたらどうするんだよ。せっかくのイルミネーションが台無しになるだろ」

「これは、これは。どうもすみませんでした。誰もいないものだから、てっきり落し物かと思いましてね」

 男性の老人は朗らかに笑った。しかし子供は、しかめっ面をしているフクを恐れ、老人の背後に隠れていた。子供の目がうるうると潤っている。

「でも、せっかくのクリスマスですよ。今日はあまり怒鳴らない方が幸せですよ」

「大事なもんを勝手に触られたら、そりゃ怒りますよ」

 老人はまた朗らかに笑った。

「あなたはまだ子供ですね」

「なんだと?」

「わたしの孫はまだ三歳ですが、自分の思い通りにいかないときは泣きわめくんですよ。まだ子供ですから許せます。でも、あなたは見たところ高校生くらいですね。他人を押しのけてまでも、大切なものを守りたいんですか?」

「言ってることがよくわからないんだけど……」

「つまり、そのイルミネーションを独り占めしたいのですか、と聞いているんですよ」

「いや、そもそもおれは人に見せるためにやっているんだけど……」

「じゃあ、わたしたちも見に来てよろしいですかな? わたしたちも人ですからね。きっとこの子も見たいでしょうし」

 そう言って笑みを送りながら子供の頭をなでつけた。子供もとてもか細い声で「おねがいします」と丁寧にお願いしてきた。

「えーっと……まぁ、はい」

 まだ泣きそうだった子供の眼に戸惑いながらも了承した。

「ありがとうございます。忙しいところお邪魔してすみませんでしたね。それでは今夜、またここに来ますので」

 深々と頭を下げた老人に、フクは軽く頭を下げた。子供はなにも示さず、ただ老人の手を握った。

「おじいちゃん、まんげきょう見せて!」

「はいはい」

 老人はそう言って手提げバックから取り出したのは、丸い筒だった。子供は穴からのぞきこみ、筒をクルクルと回し始めた。子供は目に映るものに嬉々と楽しんでいた。

 フクは二人の背中姿をじっと見ていた。そして何かひらめいたようにぱっと顔が明るくなり、すぐさま単車に乗り込み、走り出した。

 夕日がフクの目を焼き付けようとする。しかし、たとえ日光を遮ってくれるサンシールドがなくても喜ぶ佐久が見れる。そう確信した。




 突然電話がかかってきて驚いた。電話越しに聞こえるフクの声は、なんだかいつものフクとは違ってわくわくしているような感じがした。なにかあったのかな。

 日はもうすっかり沈み切っていた。道を照らしてくれるものなどないから足下を注意深くしないといけない。聞いた話だと、東京の夜は昼間と同じくらい明るいんだとか。もしそうだったら道とかに迷わなくて済むんだろうな。

 真っ暗な道で単車を走らせていた佐久は、待ち合わせ場所の空き地に着いた。空き地の中心には、懐中電灯を手にしているフクがいた。ヘルメットを単車のハンドルに引っかけ、懐中電灯で辺りを照らしながらフクの元へ駆け寄った。

「なによ。何もないじゃない? やっぱり嘘だったのね」

「嘘なわけないだろ。ちゃんとここにある」

 そう言って懐中電灯で照らした方向の先には、高さが人の大きさぐらいある大きな二枚の板だった。折り曲げるように置かれたその板をじっと見た佐久は呆れたようにため息を吐いた。

「あのね。わたしはこんなつまんないことを見に来るくらい暇じゃないの。それくらい分かるでしょ?」

「まぁまぁ、怒りなさんなって。とにかく、板の前に立ってよ」

 疑るような目で見ている佐久はじっと立ち尽くしたままだった。

「ほらほら、動いた動いた」

 フクは佐久を反対側に回り込ませ、板の前に立つよう促した。佐久はしぶしぶと板に挟まれそうな形で板の前に立つ。

 突然目が痛くなった。なに、これは。佐久は目を細めながら前を見た。すると、そこには懐中電灯の明かりに目を眩んでいる佐久がいた。佐久はあっと声を発した。

「これ、鏡?」

 佐久が鏡に気を取られているうちに、フクは佐久の持っている懐中電灯をひったくった。佐久の背後からばたんと音を立てたのと同時に、中は真っ暗になった。

「ちょっとフク! なんなのよ、これ! すぐに出して!」

 何も見えない。手に触れているのは壁だけで、上を見上げても真っ暗だった。天井まで施しているらしい。そのほかは何もなかった。

「すぐに明るくするから、ちょっと待ってろ」

 カチッと音がかすかに聞こえた。すると、足元からほのかに光を照らした。

「え……?」

 目の当たりにした光景に心を奪われてしまった。

 星、星、星。辺りには色とりどりの光の宝石がまばらに、そして地平線の果てまで散らばっている。そして佐久があちこちで立っていた。

 まるで星空の中にいるみたい。

 佐久は一歩前で出ようとした。しかし、手に触れた壁のことを思い出し、壁に囲まれた星空にいるんだと分かり、そのまま立ちつくしか他ならなかった。

 広大な星空にたくさんのわたしがいても、とても孤独に感じられた。

「どうだ、佐久。きれいだろ?」

 星空の向こうに高揚を抑え切れないフクの声が聞こえる。でも姿はどこにもない。あるのはただわたしだけ。

 無意識のうちに視界がにじみ、ぼやける。

「ねぇ、こっちに来て」

「無理だ。鏡を立てるのに人の手が……あ、どうも」

 フクが誰かに向かって話しかけていた。

「え……じゃあ、頼みます」

 背後から重たい音がした。頬を拭いながら振り返ると、フクが入り込んだ。そしてまた重たい音が響いた。再び星空の中に閉じ込められた。でもさっきとは違って、二人っきりになれた。

「こんなことのために、わざわざ学校を抜け出したの?」

 佐久は震え声でフクに訊いた。間近にいたフクはきょとんとした声で言った。

「そうだけど?」

「……あほみたい」

 ばかばかしいと思いながらも、湧き出る嬉しい感情は抑え切れず、ひたすらに流れ続けた。

 佐久はフクと向き合った。今まで意識していなかったのに、胸の高鳴りが止まらない。フクの顔を見るだけでもつらい。そのせいか、泣きじゃくってしまう。助けて、フク。とても苦しい。

 フクは泣き続ける佐久をただ呆然として見ていた。でも意を決したように、落ち着いた声で言った。

「メリークリスマス」

「……メリークリスマス」

 佐久は目を閉じ、一番の幸せをフクから授かった。彼の温もりが、胸の高鳴りも苦しみも徐々に溶かしているのを感じていた。

「ねぇ、おにいちゃん! まだー!」

 佐久とフクは髪が逆立つくらいに仰天した。鏡の裏からドンドンと音を立てて幼い声が中に響く。静寂な夜だから余計にうるさく聞こえた。

「な、なに……?」

 まだ堪能したかったのに、邪魔をするのはいったい誰?

「ほらほら。そんなことしたら、おにいちゃんが入れてくれないよ?」

 乾いた声も聞こえてくる。

「今出るから、開けて!」

 フクが大声を張り上げた。すると、がたがたと音を立てながら一枚の鏡が移動した。出口にはには家族連れの人がいた。子供に、大人に、老人までいる。

「すみませんね、二人で仲良くしていたところを……」

 男性が鏡を手で固定させて、頭を掻きながらそう言った。

「いや、別に……さぁ、中に入って。おれが閉めますから」

「ちょっと、フク?」

「ごめん、実はこの子供にこのイルミネーションを見せる約束しちまってて」

 フクは佐久に耳打ちした。子供に約束した? それってつまり、わたしだけ見せるクリスマスプレゼントじゃなかったってことなの?

 子供が先に入り、その両親が頭を下げながら「すみませんね」と言って中に入って行った。しかし、老人はじっと立ったまま動かないでいた。

「じいさんは入らないのか?」

「わたしはいいんです。それより、早く孫に見せてあげてください」

 フクは「分かった」と言いながら、鏡を立てかけ、三人を中に閉じ込めた。

「わたしはあなたを見くびってました。先ほどは子供だなんて言ってしまってすみません」

 老人がフクに向かって丁寧に頭を下げた。

 佐久はフクの傍に駆け寄り、暖かい手をつないだ。

「それに、お嬢さんも。すみませんね、お邪魔してしまって」

 今度は佐久に向かって頭を下げてきた。佐久はあまりにもまじめな老人に戸惑いを見せた。

「え? あ、いや、わたしは大丈夫です」

 邪魔しないでほしかった。プレゼントを贈るなら一人一人に贈ってほしかった。でも、あの星空を独り占め、いや二人で独占したら、なにか罰当たりなことに遭いそうだ。誰もが見上げる星空を、人の都合で横取りするのはきっと良くない。

 佐久はちらりとフクの顔を見てふと思い出し、「あっ」と声を漏らした。佐久はフクの手を引っ張りながら自分の単車に戻った。

「な、ちょっとそんな引っ張んなって!」

「うっかり忘れるところだった。わたしもプレゼントがあってね――はい、これ」

 佐久が渡したのは紙一枚分くらいの薄さのものだった。時間がなくて包めなかったけど、そんなことをしなくても、驚かせるには十分だった。

 フクが懐中電灯で照らしながらプレゼントを開いた。それは――。

「……数学が『1』? これってつまり……」

 ――フクの通知表だった。

「嘘だろ! そんな馬鹿な!」

「授業中ずーっと寝ているからだよ、ばーか」

 いたずらっぽくそう言って、フクの驚いている顔を見ながら無邪気に笑った。

「ばかってなんだよ!」

「だって本当のことでしょ? 勉強をすっぽかしてクリスマスプレゼントを用意してたんだから」

 フクのこと、ばかだなんて思ってないよ。幸せな一時をつくることができる、すごくて、いい人だよ。

 本当は通知表を見てほしかったんじゃなくて、手紙に気付いてほしかった。通知表が開いたとき、フクは落ちた手紙に気付いてくれなかった。そしてその手紙を風がどこかに吹き飛ばしてしまった。でも、もう必要ない。文字にして伝えなくても、きっと気持ちは通じ合えたと思ったから。

 佐久は夜空を見上げる。それにつられてフクも一緒に見上げた。夜空には"本当の星"が照らしてくれた。でもその輝きは、きっとわたしとフクに向けたものじゃない。星の数ほどの人に向かって幸せを願って光っているんだと、そう思った。

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