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置きゲルにお越しください。

サマー・バレンタイン【おめでたい話】

作者: 湧水蓮太郎

おめでたい話がありましたので、夏の思い出話を語りたいと思います。









中等部のころ、僕は中学では珍しい“外国語科”といったシャレオツな学科に属していた。



英語の他におフランス語を勉強し、副担任もおフランス人だった。




シュルルプレ、ジュテームマダーム、エド・ハルミ(ドコイッタ)、ショウシュウリキ、タンスニゴンゴン、ムシコナーズ!





日常の会話はだいたいこんな感じ。




エスプリが香る青春時代であったが、僕の青春時代はブルボン朝の華やかさとは程遠く、漆黒に彩られていた。



一番の原因は、



クラスの男女比が、






5(メンズ)対35(ガールズ)






であったこと。




一般的には、




いいじゃん! ハーレムじゃん! ヤ○コンじゃん!




と、お思いになるかもしれないが、ジッサイはとんでもない!




地方の田舎の学校であったため、女子たちはイモもイモ。

じゃがいももいたし、サツマイモもいたし、ヤップ島の原住民と思われる丸々としたタロイモも存在した。



みんな足も短かけりゃ、野ザルのように色黒だし、とにかく野生的で声もデカく、休み時間など、女子たちの高笑いが廊下まで響きわたり、僕たち男子5人は、常に教室の4隅に固まり、ヒソヒソとスクラムを組んで囁きながら、女子たちの奇声にビクついている有様であった。




そう、男子が圧倒的マイノリティなのをイイことに、女子たちはやりたい放題。

数にものを言わせ、小沢一郎ばりに教室を牛耳っていたのであった。






僕たち男子は、陰で女子たちのことを、





「女子様」






と呼び、常にその動向と機嫌をうかがっていた。



※僕たち5人は、皆上品なお育ちが災いし、野生的な“なでしこジャパン”には免疫がなく、取り扱い方法がまったくわからなかったのである。





僕たちは、教室から存在を消すことに注力し、女子様に、





頼りない!





キモイ!




と罵倒されながらも、耐えがたきを耐え、偲び難きを偲び、なんとか7倍の戦力を持つ連合軍との開戦だけは避け続けてきたのであった。







僕たち5人の結束は固かった。




固まって生きるしか、しようがなかったのである。









そんなある日、事件は起こってしまった・・・







僕と、親友の高瀬が、ロッカールームで体育の着替えを済ませようとしたとき、




高瀬のロッカーから、




ぼとり。




と、



茶色の固形物が落ちた。




ビニールに包まれたそれは、どう見てもウ○コだった。




「レンちゃん、これ・・・なんだろうか・・・」





僕は高瀬に言った。





「ウ○コだと思う・・・。」







「そうか・・・これ、ウ○コか・・・」






ビニールの中身をよくよく見ると、茶色の固形物の先っちょに、折りたたんだ和紙のような懐紙のような、上品なペーパーが挟まっている。








年輩のウ○コだと思われた。










僕は、高瀬を気の毒に思ったが、このときに出たセリフは、







「テロだね。これは」







といったどうしようもないものであった。




呆然と立ちすくむ高瀬はみて、僕は、10月終わりにに文化祭があったのを思い出し、




「昨年もあったけど、文化祭で食べ物を売るための検便じゃないかな、気の早いヤツが持ってきて、持ち帰るのがめんどうくさいから、押し込んだんだよ。高瀬を狙ってのことじゃないよ」





「そうかな・・・、だといいけれど」




ロッカーにウ○コをぶち込まれて、だといいけれど、と穏やかに話すこの男の感情は理解し難かったが、とにかく、人畜無害の埼玉県代表のようなこの優男のロッカーにウ○コをぶち込んだ犯人だけは許せなかった。





僕は、ビニール袋を掴み、ゴミ箱にドカン!と投げ込んだ。




「高瀬! いこう! 体育の授業、はじまっちまうぞ!!」




僕は、このときの自分を最高にクールでカッコイイと思った。










次の日。







僕が登校すると、教室は文字通りイモを洗ったような騒ぎになっていた。






教卓の周りを、多数の女子様が取り囲みガヤガヤワチャワチャとやっている。




教卓の上には、茶色いヘドロのような物体。





見覚えがある。





ウ○コじゃないか。







女子様たちは、日ごろの奇抜な行動だけじゃ飽き足らず、ついにウ○コにまで関心を持ち始めたのか。



と、絶望した気持ちで眺めていると、するすると中央に進み出た女子が泣きはじめました。





ウ○コ見て泣くんなら持ってこないで早く捨てろ!




と思っていると、どうやら違いました。






チョコレートだったのです。その物体。






教卓前の中央の女子は男子から陰で、通称ロナウジーニョ(放送事故)と呼ばれ、たいそう歯茎が出ておったのですが、どうやら、そのロナウジーニョが、高瀬にプレゼントしたチョコレートだったようなのです。

※清掃係りであった彼女が、たまたまゴミ箱にドカンされていたこの物体を自ら回収したようでした。



熟年の女性の懐紙ではないかと思った和紙は、ラブレターだったのです。









怒り心頭に発した女子様たち。







まさしく怒髪天のごとく髪を振り乱しながら、口々に叫びます。





「ひどーい!!!!!」




「ありえなくなーい!!!!」



「サッキかわいそう・・・」

※ロナウジーニョの本名サキコ、別名出っ歯のサッキ。





ついには、サッキ(歯茎)の親友のトルコアイス(※髪がヘンなパーマでゴムのように伸縮するため、男子たちの間で陰でこう呼ばれていた)が、




「言いたくなかったらいいんだけど・・・これ、誰にあげたの? 平山君? 中野君?」



と、他の普通科のクラスのイケメンの名前を挙げ、サッキ(出っ歯)を尋問しはじめた。





サッキ(歯)



が答えた。




「高瀬クン・・・」





「え・・・高瀬って、ウチのクラスのあの高瀬・・・・?」




「うん」





「・・・」





僕はこれはヤバイことになった、と、ますます気配を消すために全力を挙げていたが、トルコアイスはすっかり興奮し、すっかり高瀬を睨み付けてしまっている。




「高瀬!!!!!! なんでこんなヒドイことができるの!!!」





今更、ウ○コに見えたから、、、とはとてもじゃないが言い出せる状況ではない。





サッキ(先歯)も、もうすっかり興奮してしまって、涙と鼻水で顔をくちゃくちゃにしながら、震えた声で、しかし、しっかりとした発音で高らかに叫んだ。











高瀬クン・・・












それでッ・・・・


















平気なのオオオオオツツツツツ!!!!!!!!!!!!!












ヤバイ、ヤバすぎる。

何か人間として大事な、リミッター的な部分が完全に弾け飛んでいる。




僕は、もうそちらの方向を直視することもできず、しばらく指のささくれの先っちょを真顔で眺めていたが、いよいよ高瀬の様子はどうなんだろう、と思って、チラリと高瀬のほうを見ると、






なんと、





高瀬が、
















土下座してました。








ぴっちりと頭を床に押し付けて。








・・・。






・・・・。







なんて綺麗な土下座・・・。






僕はいまだかってこれ以上の美しい土下座を見たことがない。



一様に腕を組んで睨み付ける女子たちを真正面に、土下座し続ける高瀬。






いつのまにか担任の教師(日本人、42歳)も教室の教員用の椅子に腰掛けこの様子を眺めている。

※余談だがこの教師は、この事件を眺めていたクセに、この件には一切触れず無視を決め込み、その後卒業間近に、「君たちのおかげで、介護の仕事に転職しようと決心できたんだ」となんとも失敬な暴言を吐き、女子様たちから「三年間、私たちの介護をしたつもりだったのか!!!」と罵倒されたミラクルティーチャーだった。






僕は、土下座する親友をひたすらチラチラ横目で眺めるしかなかった。









女子様が怖すぎて、僕は保身に全力であった。






連合軍の集中砲火を浴びて、高瀬は顔を真っ赤に蒸気させて涙ぐんでいたが、それでも何も言わなかった。







僕はウチに帰り、大好きな夕方クインテッドを見た後、悔しさのあまり泣きに泣いた。








なぜ、こんな話をしたか。




ここで本題だが、




なんと、




サッキ・ロナウジーニョ



と、



高瀬




が、




この度めでたく結婚することになったのである。





高瀬から知らせを聞いたときには本当に驚いた。





そして、先日、僕は、時効だと思うのだけれど・・・といって、クネクネにやにやしながら、あの夏に起こったサマー・バレンタイン(ウ○コ)事件の犯人が僕であることをサッキに白状し、サッキは、ますます高瀬のことが好きになった、とおっしゃったのであった。




僕は、




「あのとき、和紙にはなんて書いてあったの」




と聞くと、サッキは、




「和紙じゃなくてオシャレな付箋だったんだけど、“あのとき、ありがとう”って書いたんだ」




と答えた。






“あのとき、ありがとう”






なんてイイ台詞。




この言葉だけで、小説2本、短編映画の脚本が3本は書ける。




二人の“あのとき”を知る由もないが、どうやらバレンタインに渡せなかった気持ちを、半年後の区切りの日に、どうしても伝えたかった、とのことのようだった。







素敵やん。二人とも。










ま、僕は最低な人間だけれど。







と、そんなこんなで、今ふたりから結婚式の友人代表スピーチを頼まれ、思い出に浸りながら、この話を書いているわけです。





僕としては、トラウマになりかけた最高のネタとして、





高瀬クン・・・












それでッ・・・・


















平気なのオオオオオツツツツツ!!!!!!!!!!!!!







を友人のスピーチで言いたくてしょうがない衝動に駆られているが、誰も受けないだろうし、めでたい席に下品な話は止めておく。





草食男子5人で久々に会えるのを楽しみにしています。



お二人よ、お幸せに。




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