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2012号室

 雨の夜、ニコルスンはそのホテルのフロントに駆け込んだ。予約はしてないが一か八かだ。

 フロントには美人の女がいた。年齢は三十代半ば、ニコルスンは四十代なので彼女は十分に年下である。

「部屋は空いているかね。どこでもいいんだが」

 彼女の膨らんだ胸元にはヒロと記された名札が張りついていた。

「現在、キャンセルなどで三つほど部屋が空いております。どれになさいますか」

「これはどうかな」ニコルスンは各部屋番号の表示された案内板を指さした。

「景色はご覧になれませんがお手頃です」

「多少は旅行気分を味わいたい。じゃあ次のこの部屋はどんなところですか」

「それはツインです。広々としていて景色もそこそこに眺められます。お値段は先程より高くなります」

「今度は値段がつり上がるのか。じゃあ最後のこの部屋はいいのかな」

「2012号室ですね。これはおやめになったほうがいいですよ」

「この部屋は勧めないのか。幽霊でも出るのかね。景色は?」

「幽霊など出ません。景色は上々です。しかし」

 ニコルスンの直感が表に出た。

「よしこの部屋に決めよう。幽霊が出ないのなら構わない」

「そうですか。では案内いたします」

 ニコルスンはヒロの後ろについて部屋に案内された。ヒロは前から見ても美人だが、後ろから見るとたまらない色香を放っていた。その括れた腰はフロントに置いておくのがもったいないほどだ。ニコルスンの中で抑えきれないものが頭をもたげてきた。

 部屋に着いて、ヒロが何か説明しているようだが、ニコルスンは完全に上の空になった。

「ではごゆっくりおくつろぎ下さい」

 一通りの室内の説明を終えてヒロは退室しようとした。ニコルスンは彼女の肩をつかんで強引に呼び止めた。

「待てよ。ヒロ、ここはマッサージ係とか呼べるのかい?」

「それなら9番の内線で承っております」

「普通のマッサージじゃなくて、あっちのほうなんだが」

「あっちって? それはお客様のほうで外部からお呼びになっていただけますか」

「そんな手間は面倒くさい。あんたがしてくれないか。俺はあんたの体が気に入った。頼むよ。金は出す。腐るほどあるんだ」

「いや、何をするんですか! 助けて。この部屋から出して」

 ニコルスンはヒロの体をベッドに押し倒し、二三発殴ってからむしゃぶりついた。

 19分後、ニコルスンの陰茎はヒロの体内深くに到達、それから更に11分後に多量の遺伝子をばらまいた。行為はそれだけにとどまらず、数分の休憩をおいて、計三回の行為に及んだ。

 さんざんやり尽くした後、ニコルスンはむせび泣くヒロに札束を渡して、部屋を追いだした。

「いい女だった。一晩泊めてやってもよかったが、向こうも仕事中だからそうもいかんだろう。今日はぐっすり眠れるぞ」

 翌朝――、チェックアウトのためにフロントに訪れたニコルスンは不審に思った。ホールの飾り付けが少し違うような気がする。いやそれだけではない。

「あれ? ヒロさんだよね」

 彼に声をかけたられたフロントの女性は、ジロリとニコルスンを睨みつけた。

 ヒロに似ているが、年齢は二十代そこそこだ。ヒロは三十半ばの熟女だった。同一人物とは少し違うようである。名札を見ると、ナルミとあった。

「あなたはニコルスンさんですか」

「ええ、2012号室の客です。ヒロさんは非番ですか」

「ヒロですか。母は二十年前に退職しています。私を身ごもって」

「何のお話ですか? あなたはヒロさんの娘さんなの?」

「ええ、そして私の父は、あなたです!」ナルミはニコルスンを指さした。

「おいおい何を言ってるんだ。確かに俺はヒロと愛し合ったよ。でもそれは昨日だ。間違いが起こっても、その翌日にあんたみたいな娘がいるわけない。ここが二十年後なら別だがな」

「だからその二十年後なんですよここは!」

 ニコルスンは、ナルミの話を聞いているうちに茫然自失となった。

「2012号室は泊まっちゃいけなかったんです。実はあの部屋だけ時間軸が壊れていて、一晩で20年過ぎてしまうんですよ。母の説明を聞いてなかったのですか」

 過去から来た男は、錯乱を抑えきれないままホテルを後にした。

「そんな馬鹿な話があるか。ここが20年後だと。ふざけるな。俺の家族は、地位はどこに行った?」

 ふらふらと道路に飛び出す。そこに車輪のない貨物用のエアカーが突っ込んできた。

 未来とは言えど、自殺めいた飛び出しには、対処する技術がまだ追いついていないようだ。

 ドーンと大きな音がした。(了)

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