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ラドゥガ王室恋物語

騎士姫の初恋

前回投稿しました『謳われぬ末姫』と微妙にリンクしてますが、

見て無くてもたぶん行けるかと思います。

主人公が結構勇ましい子ですが、それでもよければ。

ある国にはそれはそれは素晴らしい五人の王女様がおりました。

以前お話しました末姫様の次に物語となりますは、長姉であるセラ様。

え?男の名前じゃねーか?いえいえれっきとした淑女ですよ。


彼女の本名はセラフィナール様。

長すぎて呼ぶのめんどくせえ!という訳で決まった愛称がセラ様です。

普通ならフィーナとかになるはずなんですが、

ご本人が気に入っている以上、仕方がありません。


……すみません、余計な事を長々と。

これから紡がれますは、美しい騎士姫の。

思いの外、純粋な恋物語。



私、セラは五人姉妹の長姉、且つ王女でもある。

となれば私が真っ先に結婚しなければならないだろう。


だが末の妹が真っ先に嫁に行き、

私は24にもなって恋人の一人もいない。

盛大な行き遅れだった。


原因はわかっている。

私が騎士団の副長を務めるような女だからだ。


殿方は妹達のように淑やかな娘が欲しいに決まっている。

だが私は幼い頃より、礼儀作法や刺繍といった嗜みが苦手で、

剣を振るったり、乗馬で走り回るのが大好きだった。


父と母は寛容な人で、

女の私が男に混じって騎士団に務めだしても、

一切咎めたりしなかったので調子にのったらこのざまだ。


両親には申し訳無いが、

この先、私はきっと誰の妻にもなれないだろう。

誰が好きこのんでこんな男女を欲しがるか。


きっと彼だって、今の私を見たらあの言葉を撤回すると思う。

いやきっとじゃない。断言しよう、はっきり拒絶される。

あの頃に比べて、ますます勇ましくなってしまった私など。


「……ああ、女々しいな。私も」


引き出しから写真を取り出す。

それをゆるゆると豆だらけの手で慈しむように撫でた。

すっかり色あせ、もう輪郭ぐらいしかわからない。

けれど、私は今でも鮮明に思い出せる。彼を、初恋の人を。

ただし10年前の姿だが。


彼は昔、私の国へ留学してきた別国の王子だ。

日々剣を交わし、様々な文学を語り合い、

それでも私を女扱いしてくれた彼をとても好いて。


別れの日、勝負を持ちかけられた後、

私は彼にプロポーズされたのだ。

惚れた相手から求められ、飛び上がる程喜んだのは言うまでもない。

ひと思いに頷きたかったが……考えた。


私が王妃などになれる訳がないと。

一国の王女でありながら、私は一切気品たるものが備わっていない。

日に当たって焼けた肌に顔つきも父上に似て男みたいで。

手入れされていない髪や爪は土埃で薄汚れている。

例えるならそう、まるで山猿のよう。


私は貴方に相応しくないと、断るしかなかった。

自分で捨てておいてなんだが三日三晩泣き続けた。

でも、私は十年経った今でも唯一の恋を引きずっている。


何で今更こんな事を思い出したのだろう。

わかっている、だけど見ぬふりをしたい。信じたくない。

彼が近々結婚する、その話を。


もうすぐ彼は18の誕生日を迎えるから。

彼の国では世継ぎは成人と共に妻を娶る。

だから仕方ないのだ、未だ諦められぬ私が馬鹿なだけ。

それでも私はまだ涙を浮かべる。


部屋が洪水になるかと、と言ったら大げさかもしれない。

だが少なくも自身が乾ききってしまう程、泣き続けた。



「……ちょう、せんじょう…ですか?」

「ああ。念のため確認したが間違い無いと」

「……はあ」


ある日、父より渡された封筒。

便箋を開くと一行目にはデカデカと、

父の言うとおり、挑戦状の文字が書いてあった。

しかも宛名はセラフィナール。何度見直しても私の名。


彼より手紙が来たと聞いて、

てっきり結婚式の招待状だと思ったのに。

でも内容が内容だというのに私は喜んでいる。

変人の自覚はあったがここまでとは。


私を忘れていなかったんだとか、

彼の走り書きのような『会いに来るという』の文字。

この一文で私の心は踊り出す。


デート前の心境というのはこんな感じなのだろうか?

私の場合、恋愛ではなく決闘と全く別方向だが。

でもたぶん、両方の意味で気分が昂ぶっているのだと思う。

胸がドキドキと高鳴り、自然と熱が上がる。

女友達が語っていたそのまま。ああ、楽しみだ。


理由なんてどうでもいい。

私は迷うことなく、勝負を受ける旨を伝えた。



あっという間に時は過ぎ、決闘の日。

私は闘技場、もちろん中央部に立っていた。


騎士団の副長と一国の王の戦いの噂を聞きつけ、

会場には数多の観客が駆けつけている。空席は見当たらなかった。

自国民は当然ながら、国境を越えてやってきた者も少なくない。


観客席の上部へと視線を動かす。

そこには歓声を上げる妹達と心配そうに私を見つめる父の姿。

母はいつも通りのほほんと微笑みながら手を振ってきた。

緊張を悟られぬよう、私も笑顔で手を振りかえした。


その時、突然会場が静まりかえる。

ざっと砂の擦れる音、その方向へむき直す。


「待たせたな」


主役のおでまし。実に10年ぶりの再会だ。

彼の登場に大きな歓声が上がる。

おそらく彼の国の民と思われる者の熱狂ぶりは特に凄まじかった。


私と彼の間には長い月日が経っている。

おかげで身長もすっかり追い抜かされてしまった。

体つきも彼の方が遙かに逞しく、少し悔しいが性別が違うのだ。

経験差を抜いても手強い相手なのは一目で分かる。


鍛錬を欠かさなかったのだろう。

しなやかながら引き締まった体は惚れ惚れするほど。

私が男なら、まさに理想の体型である。


艶やかな黒髪の下、その顔に最早あの頃のあどけない彼は居ない。

六才も年下であると感じさせる要素は一切与えられなかった。

負けるつもりはないのだろう、彼は不敵な笑みを浮かべる。

精悍な顔つきにはなっていたが、向けられた表情に僅かに過去の彼を感じる。

私よりもっと深い青の瞳に宿る光は一層強くなっていた。


彼はおそらく団長よりも強い。

この強敵と戦えるのだと思うとぞくぞくと血が騒いだ。

闘争心を隠して、精一杯の笑顔を作る。


「……会いたかったよ、ラオ」


心からの言葉を告げれば、彼は二、三度瞬き。

そして何故か目をそらされた。


あれ、私、何かおかしな事を言っただろうか。

会場も再び熱気を取り戻していたのにまた静かに。

もしかして笑顔が引きつっていたのか?


「……してんじゃねーよ」

「え?」

「うるせえ、さっさと始めんぞ!」


冒頭が聞こえず聞き返せば怒鳴られた。

うるさいって……私一言しか言ってないんだが。

なんか理不尽だ。それはともかく剣を構える。


試合開始の合図は発砲音。

いつ鳴らすかは互いわかっていない。

先手を取らなければ、私に勝ち目はないだろう。

力ではまず負ける、ならば技で抗うしかない。


審判の方へ神経を研ぎ澄ましつつ、彼の動きを予想しておく。

ある程度形は変わっているかもしれないが、

何度か剣を交えた事はあるのだ。

記憶を頼りに、できるだけ多くの流れを作っておかなければ。


パアン


空へと破裂音が響き渡った。

鳴り終わる前に動く、私の方が僅かに早かった。

まず最初は彼の弱点だった右の脇腹。


観客席の緊張が歓呼に変わる。

読まれていたらしい、あっさりはじかれたが、

これは私も考えていたパターンだ。

怯むことなく、次の一撃を叩き込む。


「相変わらず迷いねえな」

「後先考えないんだ、私は」


それも避けられた為、一度離れ、体勢を整える。

私の状態に比べて、随分と彼は余裕そうだ。

今度は彼が動く。思いの外早く、反応が遅れた。


「ぐっ」


どうにか受け止めるが、その一打はかなり重い。

びりびり手が痺れた。でも次の攻撃にも咄嗟に剣を払う。

受け流したつもりでいたが失敗した。

刀身へまともに食らったおかげで痙攣が増して。


無理矢理突き出すが、全く威力のないそれは、

攻撃どころか彼にチャンスを与えてしまった。

トドメと言わんばかりの殴打が鍔へ与えられる。

持つ力がすっかり弱まっていた上にその攻撃だ。


私は剣を落としざるをえなかった。

急いで拾おうとするが、腕を伸ばしきる前に頸へ彼の剣が。


「……強くなったな」

「当たり前だろ、何年経ったと思ってんだ」

「降参しよう、ラオ。貴方が勝者だ」


本気の殺し合いではないとはいえ、

思いの外、あっさり負けてしまったな。

試合の決着に場内がどよめく。

私の白旗に彼は満足そうに口角を上げた。



「これで文句ないだろ」


ラオの手を借り、立ち上がった私が砂を払っていた所、

ふんぞり返った彼が口にする。

何を示しているか、分からず私は頸を傾げる。

ぴくりと彼のこめかみが動いた。


「条件は満たした、これでお前は俺の妻だ」

「………………………………え」


何を言われたかわからず、

随分長い間を空けて、私は間抜けな声を上げる。

その対応がまずかったらしい。

次に彼は青筋を浮かべた、口が引きつっている。


「お、ま、え、が、言ったんだろうがああああああ!!」

「な、何を?」


尋常じゃない様子に観客達がこっちに注目する。

中には身を乗り出し…ってこら危ないから、

双眼鏡でも借りてきてくれ!

私の心配を余所に観客達は好奇心に溢れた目を一向に止めない。


「前のプロポーズ、忘れたとは言わせねーぞ!

 こっぴどく振っただろうがお前!」


そんな酷い断り方をしたんだろうか。

凄く簡潔に言ったはずなんだけど。

ここまで怒るって……

私はいったいどんな態度を取ったんだ?


「最後の日、お前に負けた俺に向かって、

 『私より弱いお前は相応しくないって』」


言ってないいいいい!!

さすがに私が変人とは言え、

それはいくらなんでも口にした覚えがない。


そもそも私は彼に惚れていたんだぞ?!

いくら叶わない恋だといっても、

好きな相手にそんな事言って嫌われようとする訳…。


「……」


ふとあの日の私の発言を思い返す。

彼の告白に返したのは確か二言。

『……すまない』『相応しくない』

うん、今考えたら悪かった。私が全面的に。

これだけじゃ確かに勘違いもする。

どうもこの騒動は私の言葉足らずが原因だったらしい。


「違うんだ、ラオ。

 その、それは私が貴方に相応しくないと伝えたかった」

「は?」

「私は王女なのに、

 この通り全く立場をわきまえず騎士になってしまうような、

 淑女とは真逆の存在だし…貴方に釣り合うような美姫でもない」


だから、と言いかけた私は彼を見て、思わずびくりと。

何故なら彼がいかにも怪訝そうな目をしていたから。

これが真摯な気持ちなのだが……信じてもらえないのだろうか。


「お前、鏡見た事あるか」

「え?」

「ラドゥガの蒼き百合、あと麗しき孤高の騎士姫」


何の事かさっぱりわからないのだが。

説明してくれと縋るような瞳で見つめると、

彼の浅黒い肌が赤くなる。え?


「そんな目でじろじろ見るな、」

「は、はあ」

「どっちもお前の敬称だよ」

「そうなんですか」

「絶対お前わかってねえだろ」


適当に返事したのはバレバレだった。

誤魔化そうたってそうはいかねえよと叱られる。

呆れたように彼はそれはそれは大きな溜息を吐いて。


「お前が思っている以上に、お前は美人だっつーことだよ」

「いやでも私ラオ以外に告白された事ないですよ?」

「そりゃこれだけの美姫なら、

 ただでさえ近寄りがたいっていうのに、

 その上、自分より強くなけりゃ認めない……

 お前の腕は他国でも知らないものはいないんだぞ?

 んな負け試合、普通挑むか?」


なんとなく納得が行かないが(主に一行目)

彼はどうも私を美姫と思ってくれているらしい。

笑ってはいけない、でもどうしてもにやつきそうだ。


「こっちは挽回する為に必死こいて、

 修行に明け暮れたって言うのに、勘違いって本当、

 俺の十年間はいったい……」


負けた私が機嫌良く、勝った彼が沈んでいるとは、

なんとも異様な光景である。

勝負に負けて、試合に勝ったとはこういう状況を示すんだろうか。


「ごめんなさい、でもその事が私はとても嬉しい」

「……そーかよ」

「ラオ、今度こそ受けさせて下さい、貴方のプロポーズ」


当然だ、と彼が破顔する。

そして突然重ねられた唇、それはほんの一瞬。

でも会場を盛り上げるには充分過ぎる出来事だった。


「愛してる、セラ、お前だけに永遠を誓おう」


彼の言葉に私の顔は真っ赤に染まる。

嬉しい、と再び零せば私は彼に抱きかかえられた。

まるで見せつけるように。

恥ずかしいと感じながらも私は彼に抱きつく。


新たな王妃の誕生。それも幸せな幸せな恋の末に。

密かに泣いていた父を除いて、

会場の雰囲気は祝福で大いに高まっていった。



昔々騎士姫と呼ばれた王女様は、

10年のすれ違いの末、恋い焦がれた王子様と結ばれました。


この話が人々に受け継がれた末には、

好敵手が現れたり、再びすれ違いが起こってたりと、

一筋縄ではいかない恋物語になっておりますが、真実はとても簡素。


好敵手もすれ違いもなく、

二人はそれはそれは美しく強い王子様達に恵まれて、

いつまでも仲睦まじく暮らしたそうです。


これにて騎士姫様の物語はおしまいおしまい。

ラオの結婚相手は最初からセラでした(ただし本人は知らない)

次は決めてないです、レッツ無計画!ごめんなさい!

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 泣けた。 男でも普通に読めます。 面白かったです。 [一言] 個人的には、このお姫様が一番好きです。 ラオさん幸せにしてやれよ。
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