伊純が死んだ日
夜中に救急車の音が聞こえた、隣の家からだった。
母が出ていく、戻ってきた母に
「隣誰だった?」
と私は聞いた
伊純ちゃんだったみたい。
「あんたと同い年なのに不憫ね」
母が目尻をティッシュで拭った。
「伊純ちゃんって?は?伊純がどうしたって?」
前のめりに聞くと母は「あれよ、突然死って言うやつ」
「え!?伊純死んだの!」
「あんた仲良くしてたもんね、残念だね」
母が私をハグしてくる。
私の頭の中は混乱していた、だって伊純とは今日の夕方まで一緒にいたのに、近くのショッピングモールのフードコートで、楽しく話していたことを思い出す。
泣きたくても泣けない、慌てて外に走り出た。
まだ外には人がまばらに残っていて、
「まだ若いのにねえ」
「夕食まで普通にしてたそうじゃない」
と聞こえてきた、伊純の父親を見つけ息を切らして問いかけた。
「伊純さんどうしたんですか!」
「ああ、詩乃ちゃん、伊純がね、夕食を食べてすぐ寝るって言い出したんだよ、母さんが心配して2時間後ぐらいに見に行ったら、もう……」
父親は涙が止まらないようだった。
以前、フードコートで、
「もし突然死んじゃったらどうする?」
と話していたのを思い出した。
その時たしか私は「遺産を全部伊純に遺したげるよ!」と両手を広げて言った。
伊純はなんていったっけ?
そうだ!
「いつものあの公園の桜の下で会おう!絶対に約束だよ」
と言っていた。
それから私は桜の季節になるまで必死で勉強した。
やっと春が来た。
桜前線が天気予報で聞こえるようになった頃、満開を聞いて私は我慢していた外出を解禁した。
いつもの公園に行く、誰もいない。
やっぱり天国なんてないのかな?
そう思いながら桜の木にもたれかかって待っていると、突然誰かに押し倒された。
「伊……」何度も何度も、お腹に焼けるような痛みが走る。
薄れる意識の中で知らない男が血まみれの包丁で私を刺していた。
次のニュースです、〇〇市で起きた刺殺事件ですが、容疑者は隣の家の女の子がここに〇〇が来たら刺し殺してと言っていたと供述しています。
二人は以前から交流があり……
遠くから見つめる母は小さく小さくなっていた。
「これお父さんが作ってくれたんだよね」
ああそうだ伊純の大事なマグカップを壊したのは私だった。




