第二十幕 決戦同盟
トリチェッロ区の水鏡の館にて、アクト・フィグメントの本拠地に乗り込むための作戦会議がはじまる。
第三部ステラ・マリス、いよいよクライマックス。
「さて、みんな集まったかな。.....ええと。なんで俺が仕切ってるんだろう....?」
「それは【童話の魔女】さまですから....ああ、もう紅茶ぐらい淹れますから!」
水鏡の館に、トリチェッロ区に来ていたメンバーと協力者は集結した。
「ふむ。会議の前に自己紹介をさせて欲しい。私はグーフォ・ストラーノ。医者だ。そして君たちには嘘を吐かないと示すために、ある秘密を明かそう。私はアルカナ【死神】の保持者にして、元々はアクト・フィグメントに所属していた」
「アクト・フィグメントだって....?」
この言葉に明らかに莱人が反応する。
「過去は変わらない。だが未来を変えることはできる。私が今回君たちに協力するのはシレーナのためだ。アルカナの力を君たちに振るうことはない」
「.....紡を無事に送り届けてくれた貸しもある。それにこの人は嘘ついてないっすよ莱人さん」
「僕からもお願い。グーフォさんのおかげで僕は助かったんだ」
「......わかった。アクト・フィグメントは俺の敵だ。だが、今回はあんたを信じるよ。グーフォさん」
莱人の様子にグーフォは小さく頷く。
「感謝する。そしてこの作戦が終わったら少しだけだが私の知っている情報を君に提供しよう」
「.....ああ」
「よし、じゃあ次は俺たちか。初めまして。トリチェッロ区湾岸地区で船乗りをやってるナーヴェだ。リメニアは占い師、カストルポルクスは情報屋、ユナタは鉱石人形。あとは成り行きで助けたソーレとラピョージャ、トリチェッロ区の美大生フィオレと、【棒】の影武者にされてたリキだ」
ナーヴェは手早く船員を紹介し、紅茶を飲んだ。
「俺とシトラスは【童話】から。ソーレとラピョージャもそうだけど好きに動いてもらってるよ」
「俺たちは【物語】のカタリベだ。俺は莱人。こっちの白いのは紡、フードは宵霧。赤髪の子が緋弦で水色髪の子が紫穂。おっとりしてるのは協力者のユエさんだ」
「あ、私も!私はシレーナです。先生に命を救われました。あと、アクアマリンと関係のある【海鎮めの一族】です。よろしくお願いします」
「さて、これで会議をーー」
パフェが会議を始めようとした時、
「私も加えてもらえるかな」
急に部屋の中に真っ白な男が現れた。服装は聖職者に似ている。瞳の色は澄み切った青。
「....【神話】の長をしています、[[rb:篁 照眞>たかむらしょうま]]です。現在、勇陽くんが行方不明になっているから、力になりたくてね。それにこちらには【電脳皇帝】がかき集めてくれた情報もある」
彼は会議のメンバーに書類を配布した。
「これらが現在トリチェッロ区で暴れ回っている【棒】に関する情報だ。本拠地はトリチェッロ区の離れ小島。【鏡像】と入れ替えられた人もおそらくはそこにいる。【鏡像】はあくまでもある人物の鏡だから、本人が生きていないと存在できない。あの子に監視してもらっていたけど、【鏡像】の数に増減はない」
「離れ小島なら俺の出番だ。きっちり送り届けてやる。海上戦力は?」
「【棒】の正体は高天区の金山財閥の社長です。財力はかなりのものですし、守備を置いていないとは考えづらい」
「かなりの大物が出てきたなあ....こちらも部隊をいくつかに分けた方が良さそうだ」
パフェはホワイトボードを取り出すと各勢力に応じたマグネットを取り出す。
「パフェさん、お願いがあるんです。本拠地に乗り込む部隊に僕を入れてください。胸騒ぎがするんです。勇陽を探したい」
「紡、もしかして記憶が?」
パフェの問いに紡は頷く。
「じゃあ、俺には止める理由がないよ。……喪ってから後悔しても遅いんだ。そうならないように頑張って。……えっと、照眞さん。勇陽くんは何故、今回狙われたんですか?彼はアルカナの資格者ではあるけれど、保持者ではない。グーフォさんがアクト・フィグメントにいたなら、【棒】は性格からして、邪魔者を簡単に排除できるかもしれないアルカナを持つグーフォさんを真っ先に狙うはずだ」
「……これはあくまで推測だけれど。【棒】は、金山財閥の社長は勇陽くんに執着しているように見える」
「執着?」
首を傾げるパフェに照眞は続ける。
「勇陽くんはアルカナ【太陽】の資格者だ。そして彼は特別な体質なのだと聞いた。ここにいるみなさんは【暁の緋鳥】の伝説を知っているかな?」
宵霧が頷く。
「【精霊戦争】の神話に出てくるから知ってる人は多いんじゃないっすかね?神話の登場人物でも【緋の聖女】アルヒェ様と【緋鳥の騎士】シュネル様は大人気ですし」
「ああ。アルヒェ様は私の憧れの方だ。強く美しく、それでいて優しい。雪のような白銀の髪に穏やかな緑の瞳。いつかそうなりたいものだな」
「シュネルに憧れる子は孤児院でも多い。強くてイケメン、アルヒェと同じように優しさを併せ持っている男だからな。ふむ、待合室に本を増やすか……」
照眞は優雅に紅茶を一口飲んで頷く。
「そう。シュネル様とアルヒェ様から【暁の緋鳥】の系譜は始まった。このふたりはあくまで王族ではなかったけれど、その千年後、【暁の緋鳥】の血は魔術帝国マギ・マグナの王族に流れ込む。王国が滅んだのちもこの【暁の緋鳥】の一族の血は続いていると言われているね」
「【暁の緋鳥】の能力は浄化と再生能力っすね。ゲームだと戦闘不能時に自動復活する効果を持ってることが多いっす……まさか……」
彼は、宵霧に頷く。
「そう。勇陽くんは【暁の緋鳥】の血を引く【太陽】のアルカナ保持者。フェニックスは命が尽きる時自らを火にくべて燃やし、灰の中から再生する鳥。だが、彼の気質からかアルカナの関係か、実験の結果かはわからないがこの力は少しだけ変質しているんだ。おそらく、彼の再生能力はほとんど彼自身には作用していない」
「じゃあ」
「そう。勇陽くんの能力はおそらく、自分と引き換えに他者を救うもの。生命の炎を燃え上がらせる力だ。金山財閥も、アクト・フィグメントもその力が目的だろうね」
「……僕と勇陽が出会ったのは研究所です。あそこにいた頃の記憶は断片的で……僕はほとんど塔の中にいたし記憶も欠けているからそこがアクト・フィグメントの研究所だったかはわからない。けど、彼らの性格なら【被験体】を取り戻そうとするはずだ。まずは勇陽を。そして最終的には……僕を」
紡は拳を握りしめる。
「元アクト・フィグメントとして紡の推測を肯定しよう。そして今【電脳皇帝】からも決定的な証拠が届いた。トリチェッロ区の市長はアクト・フィグメントと組んでいる。シレーナが狙われていることには気づいていた。だから霧に覆われた島から彼女を出さなかったのだ」
「先生。私も紡と一緒に勇陽くんを助けに行きます。……アクト・フィグメントのやり方は身をもって知っています。私の歌が力になるかもしれないから……」
「そういうと思ったよ。大丈夫、私が同行しよう。パフェさん。正面突破組には最大戦力をお願いしたい。ただ莱人さんは正面突破組ではなく潜入組でお願いしたい。……彼の求める情報が拠点の研究所にある可能性があるからな」
「……では潜入組には私がお供しましょう。大丈夫ですよ、服は変えますので。こう見えて、アクト・フィグメントの連中とやり合うの、慣れています。莱人さん、紫穂さん、緋弦さん、ユエさん、フィオレ、リキ。私とともに来てください。もうひとり頼れる執事がいますし、あの子もライブが終わったら合流してくれるでしょう」
「ソーレ、ラピョージャと湾岸地区組は海上戦後に【鏡像】被害者の救援に回るってことでいいな?」
「それでお願いします。シトラス。俺たちも正面突破組に。宵霧、キラリティも」
パフェの言葉にシトラスも頷く。
「わかった。確かに【童話】ももう傍観者ではいられない。それに……」
シトラスは紡とパフェを交互に見る。
「……喪うのは……ごめんだ」
**
こうして無事に本拠地乗り込み同盟が結成された頃。
「準備ができましたわ」
「ご苦労様です。こちらも調整が済みました。もっとも、最低限ですが」
金山財閥の社長にしてアクト・フィグメントの【棒】は培養槽の中で眠る傷だらけの少年をじっと見つめた。
「ねえ、今どんな気持ちかしら?ずっと、お前が選んだ相手を屈服させたかったのよ、【暁の緋鳥】」
「……悪趣味な毒蛇め……」
「やっと出てきてくれたわね。この子は戦闘能力が高いし、頭も回るから毎回苦戦したけど……」
「……資格者の身体を捕らえたぐらいで調子に乗るなよ。精霊もだが【アルカナ保持者】をなめない方がいい。……罪は必ず裁かれる。纏わり付いたお前の血の匂いが消せないようにな!」
それきり、【暁の緋鳥】は口を閉ざした。
「なんとでも言えばいいわ。心も体も暁 勇陽はアクト・フィグメントのものになった。強がっているけれど、この子の生命の炎はもうあまり残っていない。太陽は自らを燃やして輝く星。他者を救い、分け与えて……最後は奪われて絶望のまま燃え尽きなさい」
「そしてその後はあの娘に儀式を行い……金山財閥の全てを奪い去ってやろう」
女は笑う。
傲慢に、冷酷に、妖艶に。




