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序章

「こちら、萊人。目標を視認」


 満月の夜。一面の白の中に金色の男がひとり。向かう先には黒く崩れた建物の残骸。


「了解っす。周囲に紙魚種とか【文字喰い】はいます?」


 無線から聞こえてくる声に答えるために男は周囲を見回して、


「いないというか、生き物の気配がしない。【白紙域】でもちょっと珍しいね」


「じゃあ宵霧やあたし、紫穂も合流する。こっちに送られてきた映像を見るに塔は複数や。時間ないからここで一旦通信切るけど、萊人さん、ほんまに……生きてる人間を見つけたんよね?」


 仲間が不思議に思うのは当たり前だ。


 本来、【白紙域】では人間が生存することなど不可能なのだから。


「【白紙域】の危険性はわかってるしそんな嘘つく利点がないでしょ。目標地点についた。俺は見つけといた入り口から地下に降りるよ。mYtHの施設って地下にあることが多いんだよね。じゃ、切るよ」


 デバイス――通称【栞】の通話ボタンを切り、萊人と呼ばれた金色の男は建物の地下へ続く階段を降りていく。


「……見つけた」


地下の培養槽。その中で眠る真っ白な少年は、瞳を閉ざしていたがまだ生きていた。


「……迎えにきたよ。君を」


 萊人は躊躇わずに得物の銃で、培養槽の強化ガラスを割り、稼働術式を解除。そして慣れた手つきで少年の体に繋げられたチューブを外していく。


「……」


 ぐったりしたままの少年に、萊人は自らのパーカーを脱いで被せる。呼吸は弱い。微かに上下する胸の動きでかろうじて少年が生きているのがわかる。


「……侵食が酷いな。けど、安心していいよ。俺だけは、君を救える。だから、一緒に生きよう。とびきり刺激的で、波乱に満ちた、君だけの【物語】を」


 ファーストキスだったら、ごめんね。


 萊人はそう言い残して、白の少年に口付ける。


 弱まる一方だった鼓動が、力強さを取り戻す。頬に赤みが戻り、ぐったりしていた少年は、穏やかに寝息を立て始めた。


「……さてと。こんなとこに長居は無用だ。早いとこ外に出て――」


 少年を背負って歩き出した萊人は外から聞こえてくる戦闘音に足を早めた。


「あ、萊人さん。特級ランクの【文字喰い】が急に現れたんすよ。目標確保したなら早いとこ撤退するんで。東雲さんから数分で図書艦が到着するから持ち堪えろって無線が入ってます」


「了解。それまで加勢するからこの子お願い」


「ういっす。しっかり後方で守っとくんで」


**


「ここから先には行かせない」


 紫髪の少女は、振るっていた刀を一度鞘に戻し、【栞】に触れた。


「本気で行こう。【因子解放】」


 彼女の声に応えるように【栞】は術式展開。白い光に包まれて少女はその姿を変える。


 背に生えるのは純白の翼。纏うのは穢れなき銀の鎧。少女のイメージする【正義】の姿――【聖騎士】へと。


「塵に……還れ!」


 浄化の炎を纏った一閃が特級ランクの【文字喰い】の腕を斬り落とし、その身を焼く。だが、致命傷にはいたらず、【文字喰い】の腕が再生を始める。


「……そこだ」


 刹那、飛んできた魔力を帯びた弾丸が【文字喰い】の心臓を撃ち抜き、【文字喰い】の姿が解ける。


「萊人!目的は」


「達成したよ。ありがとう紫穂ちゃん。撤退だ」


「了解した」


 文字の欠片に変わった特級文字喰いに背を向け、紫穂と萊人は上空の図書艦から舞い降りてきた連絡鳥に飛び乗った。


 【白紙域】は再び静まりかえる。


 その様子を白髪に緑と橙の瞳を持つ男がモニタ越しに見つめていた。


「ふむ……あの【失敗作】がまだ生きていたとは思いませんでしたね。まあ良いでしょう。彼に組織としての利用価値などありませんから。しかし、あの金色の男……」


 男は金色の男から特別な何かを感じ取っていた。


 どこか、【神話因子】の力に似ているような――


「いえ、考えすぎでしょう。そもそも【世界】のアルカナは喪われ、【神】はまだ顕現していないのですから……」



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