カッコーの餌食
カッコウ(学名:Cuculus canorus)
ヨーロッパでは春告げ鳥、日本では閑古鳥とも呼ばれる。カッコウ目カッコウ科に分類される鳥で、モズやオナガなど他種の鳥に「托卵」を行う種として有名。
小さな警察署が、大量の苦情電話の対応に苦慮していた。
「ハイもしもし閑古市警察・生活安全課です。えっウチを語った詐欺ですか?」
「はあ、誠にご迷惑をかけております。しかしこれは詐欺でして……」
「いえ、もちろんこちらとしても万全の対策を講じているんですが……」
きっかけは「こちらは警察署ですが、あなたの口座が犯罪に利用されています」という、最近よく耳にする詐欺電話で、その発信先名にウチ(閑古市の生活安全課・防犯係)が使われていたのだ。
「課長~、山内警部補! 早く何とかしたまえ。署の電話が苦情で塞がっていれば緊急事件通報に対応できないじゃないか!」
署長から再度のおしかりを受けた。
とはいえ、かかってきた電話が、緊急通報なのか苦情電話かを予め知ることはできない。
民間企業がよく使う『事件の場合は1を、苦情その他は2を押してください』等の自動音声対応はできないからだ。
(それをやると人間味がないと言われ、さらに苦情が増えるだろう)
こうした警察を名乗る人物から怪しい電話がかかってきた場合、マスコミでは『まず冷静に対応することが大切です』という。そして『相手が本物かどうかを確認しましょう。たとえば相手が「〇〇警察署の□□です」と名乗った場合には、いったん電話を切って警察庁や各警察署の公式ホームページに掲載されている電話番号を自分で調べてかけ直すことが大事です』と教えている。
ところが今回は、その安全策が逆に犯罪グループに利用されたのだ。
偽警察官は電話に出た人から「これは詐欺ではないですか?」と聞かれると「○○さんが疑われるのはもっともです。最近こうした事件が多発していますからね。私は閑古市警察・生活安全課の小森という者ですが、それではいったん電話を切りますのでグー〇ルなどで閑古市警察 小森と検索してみてください。そうしますと正確な電話番号が載っていますので、○○さんの方からかけなおしてみてください」と言ったらしい。
被害者が実際に試してみると、確かに検索エンジンのトップページに生活安全課・小森の『注意・あなたの口座が犯罪に使われているかもしれません』というメッセージが載せられており、そこに何かあった場合にはすぐ下記に電話してくださいと電話番号が添えられていた。
無論これは犯罪者グループが金を払って検索エンジンに出した広告で、下の方に小さく『スポンサー』と書かれている。だが、慌てている一般人はそれが本物なのかどうかを見抜くことができない。
「公共機関や有名企業の名を語って偽のメッセージを出すやり口をブランドハイジャックというそうですよ」
電話対応に追われ、目の下にクマができている女性警察官・橋口巡査がポツンと呟いた。
「金を払えばどんな怪しい集団のメッセージでもトップページに載せるっていうのか? これじゃあ検索エンジンが犯罪に加担しているようなものじゃないか!」
俺は頭にきて、有名検索エンジンを運営する会社に電話で対応策を聞こうとしたが、全くつながらない。仕方なくその会社が無料公開しているAIに尋ねてみることにした。すると……、
『おっしゃる通りです。世界的な検索インフラを担っている企業として、「広告費さえ払えば誰でもトップに掲載できる」という今の仕組みは、あまりに無防備で無責任だと言わざるを得ません。特にブランド名や、公共性の高い「警察」「銀行」といったワードに関しては、人間による厳格な事前審査を必須にするなど、犯罪を未然に防ぐ仕組みを強化すべき時期に来ています。現状ではユーザー側が「一番上の広告でも疑ってかかる」という防衛策を強いられているのは、健全な状態ではありません。検索結果の最上部に出てきても、URLの横に「スポンサー」や「広告」と書かれているものはクリックせず、少し下にスクロールして「公式サイト」と明記されているリンクを探す癖をつけてください。またよく使う銀行やサービスは、検索せずにブラウザのブックマークからアクセスするようにしてください。』
などとまるで他人事のような回答をしてきた。丁寧な言葉を使っているが、騙される者が悪い。我々には法的責任がないと言いたいのだろう。
世界的な検索エンジン会社のCEOが最大の利益を上げることに奔走し、本当に人手が必要な個所までも自動化で賄おうとして、これまでに築き上げてきた信用を失おうとしているのだ。俺は近くにできたコンビニの無人店舗を思い出しながら「企業が利益を追い求めるのもわかるが、雇用を創設することも大切な役割だろうに……」と呟いた。
ところが、そんな無責任なことをやっていた検索エンジン会社が、ついに存続危機にまで陥ることになってしまった。
Ⅹ国に本社がある有名な某電気自動車メーカーから、数千億ドルを上回る損害賠償を請求されたのだ。
ある日、検索エンジンのトップページにその電気自動車メーカーの名前ともに、セキュリティ対策のためのユーザー登録を即す案内が出た。
それを見た人が何気なくアカウント登録をすると、その人のメールアドレスに、お礼の言葉と共に近隣の充電スポットやら日常のメンテナンス方法、ポイントの貯め方などを載せたごく普通のメールマガジンに混じって、以下のような文面の通知が届く。
『緊急リコール情報・以下の車種を所有しておられる方は下記のURLまで、ご連絡ください。バッテリーに重要な欠陥が見つかり、走行中に火災が発生して重大事故につながる可能性があります』
もちろん大嘘だが、これがメーカーに成りすまして検索エンジンのトップページに載せられてしまったのだ。
パニックを起こした世界中のユーザーたちが真相を知らずに情報を拡散するとともに、偽アカウントから修理の優先順位を確保する名目で数百ドルを振り込まされ、さらに自国の警察署名義で客自体が不法改造や関税法違反を犯しているとして偽の罰金を請求され、それを防ぐためにと現れたインチキ弁護士にも弁護料を支払わされたのだ。
皮肉なことに自国でこの検索エンジンが使えないⅩ国の住民だけは被害を免れたものの、世界的なブランド価値を大幅に侵害されたメーカーは怒り狂って、検索エンジン会社を訴えたのだった。
さらに同じような事例が日本や欧米の有名メーカーでも起こって偽広告を掲載した、複数の検索エンジン会社は、それぞれ数兆ドルの損害賠償請求を出され、倒産危機にまで陥ったというわけだ。
現在は好むと好まざるに関わらずデジタル社会だ。現に政府も国民全員がマイナンバーカードを持つように推し進めている。効率重視というのも分かるがそういった強引なデジタル化に戸惑う人も多い事だろう。欧米でもデジタルデトックスからスマホ離れが起きているという。
「山内課長、私はもう限界です」
朝から連続で苦情電話に対応していた橋口巡査が机にうつ伏せた。
電話はまだ鳴りやまない……。
おしまい
この物語はフィクションですが、実際に私が体験した事実を元に小説にしました。




