やり直した俺は世界を救う
真っ当な俺tueee系ではありません。
そのジャンルがお好きな方はご注意下さい。
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「は……、はっ!は……!」
ベッドから飛び起き、俺は穴が空いたはずの胸を押さえる。大丈夫だった。怪我なんて一つもしていない。
さっき、俺は確かに魔族に胸を突き刺されて死んだ。
いきなり村を襲ってきた魔族は『この村に勇者がいる』と声を高々に宣言して村人を殺していった。
両親が殺され、弟も殺された。
次は俺の番だった。
「駄目!アダムには手を出さないで!」
その時に、隣に住んでいたエリスが立ちはだかった。
いつも俺の後ろをついてくる、うざったい妹分。
そいつが俺の前に立った瞬間。
二人で串刺しにされて殺された――筈だった。
何だ?何が起きている?
時間が巻き戻ったのか?
窓の外では、今日の村祭りの為に大勢の人が楽しそうに準備をしている。
果物屋のおじさんが、山積みになったリンゴの棚を崩して泣き言を言いながら積み直している。
――この光景を見るのも二回目だ。
やはり、時間をやり直しているのか。
しかし、この半年後の満月の夜に魔族がやってくる。
どうしたらいいだろう。
このままでは、ここに居る全ての人が皆殺しにされる。
「おい、何をボーッと間抜け面している」
俺のベッドの足下から幼い少年のような声がした。
「は!?」
そこには黒髪で琥珀色の瞳の十歳くらいの少年が腕を組んで俺を見ていた。
「お前は選ばれたんだよ。おれは不満だけどね」
「選ばれた?――勇者に?」
「ああ。勇者にお前が選ばれた」
それからの俺は、冒険者ギルドに行ってステータスを測ってもらった。誰も見たことが無いような驚愕的な数値だった。
サイファと名乗ったこの子は、別段驚きもせずに言った。
「まぁ、当然だ。エリスという少女が居るだろう。あの子も計測してみるといい」
――結果、エリスも数値が高く。更には魔法適性が全種類あった。
なんだこれ。
俺が勇者だったのか?
エリスは勇者を助ける仲間の一人だったのか?
エリスと俺は修行を続け、半年後の魔族の襲来に備えた。
エリスも俺も更に強くなり、サイファの指導の下で厳しい訓練を続けたお陰でS級冒険者すらも軽々と倒せるような力を手に入れた。
そして今日。
あの日の魔族が襲来する日を迎えた。
空に浮かぶ、一体の魔族。あの日見たそのままの光景だった。
「エリス!奴に魔法を!」
俺はエリスに指示を出し、屋根を駆け上がる。
「雷撃!」
「ぐわぁぁ!」
エリスの魔法が直撃し、魔族が感電して動けない間に、俺は敵を袈裟斬りで真っ二つにしてやった。
ボロボロと崩れ落ちていくその魔族は、エリスと俺を見て、途切れ途切れに言った。
「お前……何度、繰り返している……」
俺が繰り返している事に気付いたのか。
だが、答える義務も無い。
「さっさと塵になれ」
その後の村は大騒ぎだった。
勇者が現れた!と声高に叫び、驚き、村を救った俺を持て囃した。
その後王城に呼ばれ、王から魔族と魔王の討伐を命じられた。
旅の仲間も用意してくれ、俺達は魔王城を目指して旅に出た。
王が選んだ仲間は見事に女性ばかりだった。
この中の誰かと恋仲になって俺を国に縛り付けたいのだろう。
だが、別に他国に渡る理由もない。
思惑に乗っても俺に損はなかったので、存分に楽しませて貰う事にした。
毎夜ごとに変わる相手の女。
俺を巡って嫉妬をするのが可愛らしい彼女たち。
――ああ、そういえば。
エリスを抱いてあげるのを忘れていた。
きっと随分と待たせてしまって、拗ねていることだろう。
「エリス、今まで放っておいてごめん。お前も寂しかったんだろう?」
派手な他のメンバーと違って、可憐な愛らしさがあるエリス。今夜はまた違う意味で楽しめそうだ――。
すると、エリスは俺の手を振り払い。何故か大人の姿になっているサイファに命令した。
「サイファ、やっちゃって」
◇◇◇
私が命じると、アダムは糸が切れたように崩れ落ちた。
――あの時、勇者に選ばれたのは私だった。
私に特別に与えられたスキルは『やり直し』。
条件が厳しいが、命にかかわる時、魔王がかかわる時、私がアダムを諦めた時に時間がリセットされる――。
アダムが条件になってしまったのは、当時の私が強く願ったからだろう。次からはもう二度とそんな事は起きないでしょうけれど。
一回目は道半ばで倒れてしまった。
命からがら村から逃げ出して、魔王が復活したと話題になっていた王都をアダムと目指した。
そこで、魔王討伐の命が下ったメンバーと旅をすることになった。
私の数値は以上に高く、数値を偽装する為に相棒のサイファに頼みアダムに半分を譲渡して旅に加わった。
サイファは勇者の従魔。神からの私への贈り物だった。
何度やり直しても毎回繰り返される、アダムと女性達の淫らな夜。全員を順番に抱いていく。彼は、もう私の知っている幼馴染みではなかった。
大人の姿に戻った彼が私に聞いた。
「もう流石に愛想が尽きただろう?あいつの何が良かったんだ?」
「多分、ずっと一緒に育った情でしょうね。それも枯れきってしまったみたい」
私がやり直した最初の一回目。
彼が知らないやり直しの回。
理由もわからずに泣いているだけだった私の手を無理やり引いて、彼は一緒に逃げようとしてくれた。
きっと、私の初恋だったのだ。
私だけを愛してくれる事を何度も望んだ。しかしその度に裏切られ、私が今回の彼を諦めた瞬間に自動的にリセットされる世界。
――そして、恋心は見事に枯れ果て何も残らずに消え去った。
「サイファ、村が襲われる直前にやり直して、二人だけで魔王城を急襲しましょう。繰り返した私達のレベルでは簡単でしょう」
今回は、魔王も勇者も英雄も、勿論浮気者の馬鹿が調子に乗らない世界にしましょう。
「サイファ。サイファは私を裏切らないわよね?」
「当たり前だろう。俺の、俺だけの主人、――勇者エリス」
エリスは何度もやり直しています。
最初は力量不足から。
その後は、アダムに幻滅しながらも次は浮気をしないで自分だけを愛してくれるという希望から。
そして、ステータスはどんどんと上がっていきました。
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