エピローグ
3年後
「栗田先生、このタイムカードはなんですか?」
俺が尋ねた。
「え、あれはシフトよりも、自分が勝手に早くきただけだったんで………」
栗田先生が答えた。
「いえ、ダメです。生徒とも話をしてくれていたじゃないですか? ちゃんと勤務時間に入れてください。タダ働きは絶対にダメ!」
俺がそう言うと、栗田先生はタイムカードを修正してくれた。
「あ、そうそう。今日、アルバイトの方の採用試験が入ったんですよ。」
俺がそう言うと、栗田先生が笑顔で答えた。
「そうなんですね。先生が増えるのはありがたいですね。生徒も増えてきましたし……。」
俺は自分で塾を立ち上げていた。
会社を辞めてから開業するまで時間がかかったが、再び教育業に携われることに喜びを感じていた。
開業資金は、自分の貯金や水城さんからの借金で賄った。
水城さんは、今アメリカにいる……。
俺が「年度末に辞める」と会社に伝えてから、すぐに水城さんから連絡があり2人で会って話をした。
嫌疑をかけられていた項目はすべてデマだったらしく、証拠もでっち上げだったらしい……。
水城さんと岡本さんは、ずっとM&Aの件で対立していた。M&Aを進めたい岡本さんと、自社だけで生き残っていきたい水城さん。
水城さんは、開業当初から一緒に働いてきた岡本さんなら、いずれ分かってくれると信じていた。
しかし、あのような強行策に出られたことでショックを受け、反論もせずに辞任の道を選んだということだった。
「幸いこれから生きていくだけの貯蓄はあるし、違うことにもチャレンジしてみたい時期でしたからね……」
水城さんが笑顔で言った。
「チャレンジしたいこと?」
俺が尋ねた。
「経営の勉強です。アメリカの大学に留学しようと思っているんです。元々、私は経営者としては力量不足を感じていたんです。
そんな中、今回の件が起きて自分が未熟だったと痛感させられました。」
水城さんが答えた。
水城さんは、半年後、アメリカに旅立った。
「こんにちは~。本日、採用試験を受けにきました石原です。」
「あ、ありがとうございます。お待ちしていました。責任者の黒井です。こちらへ、どうぞ。」
……
……
……
「色々とお聞かせいただき、ありがとうございました。」
「最後に、私の経営方針をお伝えさせていただきます。もし、それがご自身の考えに合わないようでしたら、辞退してもらっても構いません。」
俺がそう言うと、石原さんは大きく頷いた。
「まず、何よりもご自身の生活を最優先してください。」
石原さんは驚いた顔をした。
「教育って、どうしてもブラックになりがちなんですね。『生徒のために』って言っちゃうと、休日出勤したり残業したり何でもやってあげたくなるんです。でも、それって実は悪循環しか生まないんですよ………」
俺が目指しているのは、「ホワイトな塾」
何よりも働いている先生方を大切にしたい……
先生方にはワークライフバランスを大切にして欲しい……
きれい事と言われるかも知れない……
でも、そのきれい事がどこまで通じるのか、やり切ってみたい……
だって、教育って本当に楽しい仕事だから……
仕事のために、自分を犠牲にするなんて馬鹿げている。
本当に大切にしなければいけないのは、あなた自身のはずだから………




