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ブラック企業での日々  作者: 黒井 新
第四章
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大手進学塾⑯

長期休みの際の講習は、自分の校舎以外で授業をすることがある。

他の校舎の雰囲気や取り組みを知れたり、他の社員の授業を見れたりするため、その後の校舎運営に生かせる。


例のアンケートも講習の最後にとるので、普段の授業以上に力を入れて臨んだ。


俺は、アンケートで常に80%前後を取り続けていたが、ベスト10に入ることはできなかった。






今回の講習、俺は遠藤さんの校舎で授業を行っていた。

遠藤さんは、優しく面白い話をたくさんするので、生徒達には人気だった。


(流石、満足度100%は違う……、遠藤さんの授業は面白い……)


何度か、遠藤さんの授業を覗いたことがあったが、雰囲気もよく盛り上がる時は盛り上がるが、集中する時は集中する、そんなメリハリがある授業だった。





(今日は講習の最終日かぁ。初めて会う生徒達だったけど、仲良くなれて良かった。また次の講習で会えると良いなぁ)




「……ということで、ここまでで何か質問ある人?」

俺は生徒達に向けて、尋ねた。



「大丈夫です。」

何人かの生徒が答えた。


「じゃあ、問題を解いてみようか。問題集の52ページの問2と問3。時間は10分間ね。」


俺は生徒達に問題演習の指示を出した。


(講習、最終日だし、最後に遠藤さんの授業を覗いてみよう……。)


遠藤さんの授業を覗いてみると、こちらも問題演習の最中だった。


遠藤さんは、一番後ろの席に座り、消しゴムで何かを消して鉛筆で書き直しているようだった。


俺に気づいた遠藤さんは、焦った様子で教室から出てきた。


「どうした?」

遠藤さんが俺に尋ねた。


「講習の最終日だったんで、遠藤さんの授業を見たかったんですけど……」

俺が答える。



「悪いな。今、問題演習中だから……。今日で講習が終わりだから、こんな所にいないで生徒一人一人に声かけてやってくれ。」

遠藤さんが言った。


「分かりました。」

俺はそう言うと自分の授業に戻った。


(確かにそうだよな。最終日だし、生徒達の頑張っている姿を目に焼き付けておこう。)






「それでは、アンケートをとります。」


俺は、アンケート用紙を生徒全員に配布した。

1枚の用紙で、講習を担当した先生全員の評価を記入できる形式になっている。


アンケートはマークシート形式で5段階評価、5つの質問があり、それぞれに対して評価を付ける。勿論、無記名だ。

5が満足、4がやや満足、3が普通、2がやや不満、1が不満。


(お願いだから、5を付けて………)

声に出してお願いしたかったが、誘導してアンケート評価を上げるような行為は禁止されている。




「それでは、アンケート用紙を回収します。先生は見ちゃいけないから、玉井さん、回収してこの封筒に入れてもらえるかな?」

俺は、玉井さんという女子生徒に伝えた。


「はい」

玉井さんは元気に返事をすると、全員分のアンケートを回収し、封筒に入れてくれた。



「皆さん、今回の講習に参加してくれて、ありがとう。先生は、皆さんの授業を担当できて本当に楽しかったです………」

俺は最後に別れの挨拶をした。


(また次の講習も来れると良いなぁ)


「それでは、授業を終わります。起立、礼。ありがとうございました。」

俺がそう言うと、松尾という男子生徒がすぐに立ち上がり、そそくさと帰ってしまった。


(おい、松尾。お前には余韻に浸るということがないのか……)


「黒井先生」

玉井さんが声を掛けてきた。


「松尾のやつ、最悪なんだよ。アンケート回収するときに見えちゃったんだけど、あいつ……全部1をつけてた。」


(え、玉井さん……、そんな悲しいお知らせをわざわざ伝えなくて良いよ………泣。そして、松尾よ。お前が遠藤さんの殿堂入りを阻むとはな……w)


「私は先生にまた来て欲しいから、全部5をつけたよ。じゃ、先生。また次の講習でね。」

玉井さんは、そう言って帰っていった。





約1か月後

今日は全社会議の日


アンケートの結果が発表される日だった。


「それでは、生徒満足度アンケートの上位者表彰を行います。」


(どきどき………)


「10位 満足度80% 小林隆弘さん」


(うぉー、すごい! 新人の小林さんじゃん。おめでとうー)


(10位で80%だったら、いけるんじゃない?)


その後、順々に上位の社員が発表された。


2位まで発表されたが、今回も俺の名前が呼ばれることはなかった。


(泣…… 今回は自信あったんだけど……。


1位は、やっぱり遠藤さんかな? 

でも、100%神話は崩れちゃったから、何%くらいになるんだ……?)










「1位 満足度100% 遠藤勝利さん」



(え、100%?)


あの時とは、違う驚きがあった。




そして、疑惑が確信に変わった………。

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