大手進学塾⑯
長期休みの際の講習は、自分の校舎以外で授業をすることがある。
他の校舎の雰囲気や取り組みを知れたり、他の社員の授業を見れたりするため、その後の校舎運営に生かせる。
例のアンケートも講習の最後にとるので、普段の授業以上に力を入れて臨んだ。
俺は、アンケートで常に80%前後を取り続けていたが、ベスト10に入ることはできなかった。
今回の講習、俺は遠藤さんの校舎で授業を行っていた。
遠藤さんは、優しく面白い話をたくさんするので、生徒達には人気だった。
(流石、満足度100%は違う……、遠藤さんの授業は面白い……)
何度か、遠藤さんの授業を覗いたことがあったが、雰囲気もよく盛り上がる時は盛り上がるが、集中する時は集中する、そんなメリハリがある授業だった。
(今日は講習の最終日かぁ。初めて会う生徒達だったけど、仲良くなれて良かった。また次の講習で会えると良いなぁ)
「……ということで、ここまでで何か質問ある人?」
俺は生徒達に向けて、尋ねた。
「大丈夫です。」
何人かの生徒が答えた。
「じゃあ、問題を解いてみようか。問題集の52ページの問2と問3。時間は10分間ね。」
俺は生徒達に問題演習の指示を出した。
(講習、最終日だし、最後に遠藤さんの授業を覗いてみよう……。)
遠藤さんの授業を覗いてみると、こちらも問題演習の最中だった。
遠藤さんは、一番後ろの席に座り、消しゴムで何かを消して鉛筆で書き直しているようだった。
俺に気づいた遠藤さんは、焦った様子で教室から出てきた。
「どうした?」
遠藤さんが俺に尋ねた。
「講習の最終日だったんで、遠藤さんの授業を見たかったんですけど……」
俺が答える。
「悪いな。今、問題演習中だから……。今日で講習が終わりだから、こんな所にいないで生徒一人一人に声かけてやってくれ。」
遠藤さんが言った。
「分かりました。」
俺はそう言うと自分の授業に戻った。
(確かにそうだよな。最終日だし、生徒達の頑張っている姿を目に焼き付けておこう。)
「それでは、アンケートをとります。」
俺は、アンケート用紙を生徒全員に配布した。
1枚の用紙で、講習を担当した先生全員の評価を記入できる形式になっている。
アンケートはマークシート形式で5段階評価、5つの質問があり、それぞれに対して評価を付ける。勿論、無記名だ。
5が満足、4がやや満足、3が普通、2がやや不満、1が不満。
(お願いだから、5を付けて………)
声に出してお願いしたかったが、誘導してアンケート評価を上げるような行為は禁止されている。
「それでは、アンケート用紙を回収します。先生は見ちゃいけないから、玉井さん、回収してこの封筒に入れてもらえるかな?」
俺は、玉井さんという女子生徒に伝えた。
「はい」
玉井さんは元気に返事をすると、全員分のアンケートを回収し、封筒に入れてくれた。
「皆さん、今回の講習に参加してくれて、ありがとう。先生は、皆さんの授業を担当できて本当に楽しかったです………」
俺は最後に別れの挨拶をした。
(また次の講習も来れると良いなぁ)
「それでは、授業を終わります。起立、礼。ありがとうございました。」
俺がそう言うと、松尾という男子生徒がすぐに立ち上がり、そそくさと帰ってしまった。
(おい、松尾。お前には余韻に浸るということがないのか……)
「黒井先生」
玉井さんが声を掛けてきた。
「松尾のやつ、最悪なんだよ。アンケート回収するときに見えちゃったんだけど、あいつ……全部1をつけてた。」
(え、玉井さん……、そんな悲しいお知らせをわざわざ伝えなくて良いよ………泣。そして、松尾よ。お前が遠藤さんの殿堂入りを阻むとはな……w)
「私は先生にまた来て欲しいから、全部5をつけたよ。じゃ、先生。また次の講習でね。」
玉井さんは、そう言って帰っていった。
約1か月後
今日は全社会議の日
アンケートの結果が発表される日だった。
「それでは、生徒満足度アンケートの上位者表彰を行います。」
(どきどき………)
「10位 満足度80% 小林隆弘さん」
(うぉー、すごい! 新人の小林さんじゃん。おめでとうー)
(10位で80%だったら、いけるんじゃない?)
その後、順々に上位の社員が発表された。
2位まで発表されたが、今回も俺の名前が呼ばれることはなかった。
(泣…… 今回は自信あったんだけど……。
1位は、やっぱり遠藤さんかな?
でも、100%神話は崩れちゃったから、何%くらいになるんだ……?)
「1位 満足度100% 遠藤勝利さん」
(え、100%?)
あの時とは、違う驚きがあった。
そして、疑惑が確信に変わった………。




