大手進学塾⑫
「歓迎会?」
「そう、遅くなっちゃったんだけど……、エリアのみんなで山田さん、田辺さん、黒井さんの歓迎会をしたいと思っているの。土曜日の終業後って、みんな大丈夫?」
江原さんが俺たち3人に尋ねてきた。
(そう言えば、今まで歓迎会なんて開いてもらったこと、なかったなぁ。)
「勿論です。喜んで!!」
俺が答えた。
「僕も大丈夫です。」
山田さんも答えた。
「田辺さんは、大丈夫そう? 社長もいらっしゃるらしいから、是非参加して欲しいんだけど……。」
(え、水城社長が俺たちの歓迎会に来る?)
「はい、大丈夫です。」
田辺さんが答えた。
「なぜ、社長が俺たちの歓迎会に?」
俺は江原さんに尋ねた。
「ああ、そっか。黒井さんには伝えてなかったね……。この校舎は水城社長が最初に立ち上げた校舎なの。」
(俺たちのエリアの拠点校が……、み、水城社長が立ち上げた記念すべき最初の校舎!? そんなところで働けるなんて、ちょ~光栄じゃん。)
「だから、思い入れも深いようで……。夏期講習からは、水城社長もここで授業をするの。その前にみんなとコミュニケーションをとっておきたいんじゃないかな?」
!!(゜ロ゜ノ)ノ
(水城社長と同じ教壇に立てる……、マジ?)
講習は、各長期休みの際に行われる特別講座だ。通常の月謝の他に追加で講習費をいただくため、塾としては稼ぎどきになる。
土曜日
「かんぱ~い」
拠点校舎近くの居酒屋で歓迎会が始まった。
「3人とも、我が社へようこそ。数ある企業の中から、我が社を選んでいただいて本当にありがとう。」
水城社長が瓶ビールを持ち、俺たちの空いたグラスに注いでいく。
「どうですか、我が社は?」
「本当に毎日が楽しくて、こっちが教えるだけじゃなく、生徒からもたくさんのことを学ばせてもらってます。」
山田さんが答えた。
(流石、山田さん。素敵なコメント。)
「大学生のときとは、全然違いますね。日々、成長を実感できています。皆さん、良い人たちばかりですし。」
田辺さんが答えた。
(田辺さんもやるなぁ。)
「生徒のために頑張ることが、今の自分の活力になっているので、日々成長できています。本当に毎日楽しいです。働くことがこんなに楽しく感じたのは初めてです。」
3人のコメントを聞いて、水城社長はとても嬉しそうだった。
…………
…………
…………
…………
1時間も経つとお酒が進み、ほろ酔い状態になっていた。
寺内さんは、いつもよりも笑顔が多く本当に楽しそう。酔いが回って来たようで、熱く語り出した。
「あの校舎は、社長が苦労して立ち上げた校舎なの。だから、私たちは覚悟を持って守っていかなければならないの。」
「こらこら、美佳さん。駄目だって。そんなにプレッシャーをかけちゃ……。」
社長が言った。
寺内さんは、新人の頃から社長にお世話になっているらしく、仲が良いらしい。因みに、美佳は寺内さんの下の名前だ。
「皆さん、大丈夫ですよ、今まで通り楽しく働いてください。失敗することもあるでしょうが、それは次の成長の糧になるので。」
社長が言った。
……
……
……
「じゃあ、皆さん。お気をつけて。今日はありがとうございました。」
会がお開きになり、社長はそう言うと寺内さんとともにタクシーに乗り込んだ。
2人の自宅が同じ方向のため、送っていくようだ。
「何か怪しいんだよね、あの2人……。」
江原さんが俺だけに聞こえる声で言った。
「え、怪しいって、どういうことですか?」
俺が尋ねた。
「付き合っているってこと。」
「え、でも社長は結婚されているんじゃ……?」
「そう、だから不倫ってこと。」
(不倫………、まさか………ね。)
「早く帰りましょうよ~」
酔っている細川さんが俺たちに声をかけた。
俺、江原さん、細川さん
高木さん、田辺さん、山田さん
3人ずつ2台のタクシーに乗り込み、それぞれの帰路についた。




