大手進学塾⑥
2日目以外は予定通り、研修が行われた。
週休2日のため、研修期間は土日が休み、校舎に配属になると、日月が休みになるらしい。
(週に2日も休めるなんて、天国じゃん。しかも給料も今までより高いなんて、マジで優良企業!)
感覚が正常ではなかった。
無事に研修期間が終了し、俺は本社から車で15分ほどの距離にある校舎に配属になった。
そこは社内でも1,2を争う生徒数がいる校舎だった。
(こんな大規模校舎に配属されるなんて……、やっぱ俺って優秀なんだww)
「校舎長の寺内です。黒井さん、本日から宜しくお願いします。」
寺内さんは、セミロングの茶色い髪の毛で、ゆるふわパーマがかかっている。しかし、その目や表情には強い意思を感じる。
「宜しくお願いします。黒井です。」
「それでは、みんなが来たら紹介しますね。」
寺内さんが言った。
「みんな?」
俺は尋ねた。
「そう、ここはこのエリアの拠点になっているの。社員は、一旦ここに出社してから、朝礼の後に自分の校舎に移動するの。」
(そうなのか……、いや……研修中に酒井さんが言っていたような、いなかったような……)
その後10分ほどすると、全社員が出社した。
このエリアの校舎は3つあり、社員は寺内さんと俺を含めて7人だった。男性が5人、女性が2人だった。
男性社員は田辺さん、山田さん、細川さん、高木さん。
田辺さん、山田さんは、新入社員で俺と同期になる。
細川さんは、入社2年目でこの校舎の副校舎長。
高木さんは、この校舎に併設する高等部の責任者を任されている。
高校生は主に映像学習らしいので、進捗や成績の管理、面談での悩みの聞きとりなどを行っている。
女性社員は、校舎長の寺内さんと江原さん。寺内さんはエリア長も兼任している。江原さんは他の2校舎の校舎長を任されている。
始業時間が13時にも関わらず、12時30分には全社員が集まった。
俺が一通りみんなに挨拶を済ませると、
「じゃあ、細川さん、黒井さんに掃除を教えてあげて。」
寺内さんが言った。
(流石、大手企業。始業前に全員集まって掃除をするとは、超意識高い!)
変な勘違いをしていた。
「黒井さん、ではこっちのトイレの掃除をお願いします。便器は、寺内さんが舐めても大丈夫なようにしてください。」
細川さんが言った。
「便器を舐める?」
(寺内さんにそんな嗜好があったとは……)
「あ、喩えです、喩え。それくらい便器をきれいにしてくれ、ということです。」
(なるほど、喩えか。)
「分かりました。」
俺はそう答えると今までの人生で一番丁寧に便器を磨いた。
「黒井さん、それではタイムカードを押しましょうか。」
細川さんが言った。
(タイムカード、すっかり忘れていた……。)
俺は何の疑問も持たず、この流れを習慣化させていった。




