大手進学塾①
「やあ、黒井さん。初めまして。人事部の酒井と言います。」
酒井さんは、50台後半くらいの小柄な男性だった。
「宜しくお願いします。」
先日の模擬授業にいたらしいが、まったく覚えていない。
「今日は社内のことについて、学んでってください」
どうやら、今日は動画での研修になるようだ。
「新卒で入社した社員も定期的に研修を行っているので、黒井さんもその内そこに入ってもらいます。」
(新卒? 入社時期が近いということは同期ということ? 同期……、思えば今まで同期と呼べる存在はいなかった。同期かぁ)
「黒井さん?」
一人でにやけていると、酒井さんが不思議そうな顔で声をかけてきた。
「失礼しました。ところで、研修期間はどのくらいあるのでしょうか?」
「大体、2週間くらいを想定しています。まぁ、経験者の黒井さんには、そんなに必要ないかもしれませんが……。」
(流石、大手。研修期間が2週間もあるのか。早く授業をしたかったが、じっくり会社のことを学ばせてもらおう。)
翌日、出社すると、酒井さんから
「黒井さん、急で申し訳ないが、S市に向かってくれませんか? S市の校舎で急に先生の空きが出来てしまって……。」と話があった。
「分かり……」
分かりましたと答えようとしたとき、俺はあることに気がついた。
(S市……、ここから車で1時間半くらいかかる。初心者の俺にたどり着くことが出来るだろうか?)
車は父親名義のものを借りていたので大丈夫なのだが、20分以上の運転をしたことがない初心者だった……。




