飛び込み営業①
「黒井さん、こちら同期の佐々木さん。今日から一緒に研修を受けるから。」
マネージャーから紹介された佐々木という男。自分と同じ歳で、短髪黒髪の好青年だった。
(佐々木さん、君には負けないよ。なんせ俺はマネージャーも認めた「性格の良さが滲み出る男」だからwww)
なぜか、自信だけはあった…。
この会社の業務内容は小学生向けの教材販売。
新人の内は、550円の診断テストを売る飛び込み営業。その診断テストの結果をもとにベテランの社員が高額な教材を売るというもの。
座学の研修は、1日だけ。2日目以降は実際に先輩について、訪問営業のやり方を学んでいく。
俺の研修担当の先輩社員は、吉田さんという女性だった。茶髪のボブ、眼鏡をかけており、薄化粧。明るい性格で話し易いが勝ち気な面もある。
俺がついて回った初日、吉田さんは焦っていた。話を聞いてもらえる家庭は何件かあったものの、診断テストをやってくれる家庭が全くなかったからだ。
午後9時から午前8時までの訪問販売は法律で禁止されている。
現在、20時過ぎ。回れてもあと1件。
最後の望みをかけてチャイムを押すと、その家庭の母親と小学生の男の子に、玄関先で話を聞いてもらえることになった。
終始和やかな雰囲気で話が進んだ。
(やっと、契約か?)
しかし、診断テストの話になった途端、母親の態度が豹変し、吉田さんと俺は追い出された。
「ごめんね、成功事例を見せられなくて。」
頭を下げて謝る、吉田さん。
「とんでもありません。こういう日もあると勉強になりました。」答える俺。
翌日、吉田さんは出社しなかった。