Chapter 1 ある部屋（１）
目を覚ますと、ソファーにうつ伏せで横たわっていた。
ゆっくりと立ち上がり、部屋を見回すと、
約５ｍ×５ｍほどの広さの部屋にいることに気づいた。
とっさに腕時計を見るとアナログの針が午後の２時を示していた。
腕時計には付属の小さなコンパスも付いている。
部屋の中央には長方形の木のテーブルと椅子
西の壁にはソファー。窓は南側にあり、出入り口のドアは北側にある。
しかし、ドアは押しても引いても開かない鍵がかかっていた。
窓からは陽光が差し込んでいる。
街並みを見下ろすと、ビルの1０階ほどの高さに感じられた。
部屋の南側の窓全体は開けることができないようになっていた。
そこで、部屋の隅にあるパイプ製の折りたたみ椅子を窓に叩きつけてみたが、
不快な音を立ててパイプが曲がり、床に落ちた。
窓から見下ろす景色は、人通りも多く、車も頻繁に通っていた。
声を上げて助けを呼んでみたが、どうやら人々には聞こえないし、
外からは見えないようだ。
私の名はアダム・タイラー。3０歳。小売店舗で販売員や在庫管理などをしている。
仕事が終わり、駐車場で車に乗ったところまでは覚えているが、
そこからの記憶がなく、この部屋で意識を取り戻したようだ。
アダム・タイラーは、しばらくの間、部屋で立ち尽くしていた。
不安と疑念が彼の心を縛り付けていた。そして、その静寂を突然打ち破るように、
扉のカギがカチャリと回り、仮面をつけた男が部屋に姿を現した。
その仮面の男の仮面は、目と口が覗ける程度で、
他の部分は白い硬質プラスチックで覆われているようだ。
仮面の男は無言のまま、アダムの目を見つめ続けていた。
その白い仮面の下に隠された表情は読み取れない。
そして、仮面の男はゆっくりと声を発した。「なぜ君はこの部屋にいると思う？」
その声は、ボイスチェンジャーで変えられていた。
アダムは少し不安そうに笑みを浮かべ、「それが分かれば苦労しないよ」
仮面の男は続けた。「では、クイズを出そう。答えられれば君の疑問にも答えよう」
部屋の中央に置かれたテーブルと椅子にゆっくりと座った仮面の男は、
アダムに向かって言った。「さあ、君も座りなさい」
アダムは不安と緊張が入り混じる中、椅子に腰を下ろし、仮面の男を見据えた。
仮面の男は手に持っていたバッグの中からファイルを取り出し、
数枚の中の一枚の紙を右手に持った。
そして、ゆっくりと、しかしはっきりとした声で、クイズの問題を読み上げた。
仮面の男「鍵はあるけどドアはない、スペースはあるけど部屋はない、
入れるけど出れない。これはなんだ？」
アダムは頭を抱え、焦っている自分にイライラしながらも、
落ち着いて考えを整理しようと努力した。
彼は自分の周りの状況を再度振り返り、問題のヒントを元に考えを巡らせた。
その時、ふとした瞬間にアイデアが閃き、彼の心に明確な答えが浮かび上がった。
「これだ！」とアダムは思い切り声を上げ、仮面の男に向かって言った。
「それは『迷路』だ。鍵があるけれどもドアがない、
スペースがあるけれども部屋がなく、
入ることはできるが出ることはできない。
そう、それは迷路の中に閉じ込められた今の状況を表している」
仮面の男は、首を左右にゆっくり振って言った。
「いや、違う。答えはキーボードだ。考え過ぎだよアダム」
