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秘密兵器。

 


 静まり返った屋敷の中、私は勝利の笑みを浮かべた。


「ふっふっふ、よくやったわ!おばけちゃん!」

「きゅっきゅう!」


 イエイ、とおばけちゃんとハイタッチする。気を失った盗賊たちは既にピクリとも動かない。後はコイツらの処理はどうするかを考えなくてはならないのだが、まあ第一段階クリア、といった感じだ。


 なお、今回のMVPは間違いなくおばけちゃんである。


 最初、私はあの盗賊二人を驚かしてやろうと思ったのだが、思ったより大変だった。特に盗賊団の親玉は冷静で、なかなか取り乱してくれなかったのだ。


 まあ、もう一人の方は最初から腰を抜かして驚いていたけれど。まあ私だって幽霊を目撃したらああなる・・・というかつい最近なっていた記憶がある。


 まあそれは置いといて、彼は確かに強敵だった。私が見えていないはずなのに、物を動かすだけで位置を予測されてしまうし、テーブルを持って殴りかかろうとも、花瓶の破片で脅そうにも、全てを冷静に対処されてしまう。多分私に実体があったなら二回は死んでた。いやあ、相手のナイフが私に効果が無くて助かったよ。幽霊様々である。


 で、流石のしぶとさに私もどうしたものかと頭を抱えていたら、おばけちゃんが飛び出して行ったのだ。そしておばけちゃんは、持っていた木の板を親方さんに翳した。するとあら不思議。嵌め込まれた赤い宝石が突然光り、親方さんがスヤスヤ眠りだしてしまったのだ!どういう仕組みかは分からなかったけれど、親方さんの無力化に成功したのである。


 厄介な親方さんがいなくなれば後は私たちの独壇場。


 腰の抜けた盗賊団の一人を、周りの家具をガタガタ揺らして怖がらせてみたり、屋敷のシーツを被っておばけになってみたり。おばけちゃんと協力しながら残った一人を驚かしつつ、二手に分かれていた盗賊の仲間を待っていた。


 そしておばけちゃんの特技を知ったのもそのときだ。


「それにしてもおばけちゃんの火の玉、凄かったね!」

「きゅっ!」


 ポン、という音と共におばけちゃんの周りに火の玉が出てくる。そっと触れてみても熱さはあまり感じない。強いて言うならほんのり温かいくらいの、見掛け倒しの火の玉である。ふよふよ浮いていて、まるでおばけちゃんが増えたみたいなのだ。その隣でちょっぴりドヤッとしているおばけちゃんも大変可愛らしい。


 そしてそれは、演出には効果的だった。おばけちゃんも、自分の手で奴らを脅かすことができてさぞかしご満悦だろう。私もあの親父に成敗下したときは最高な気分だったし。


「あ、この人たちどうしよっか。移動させようにも触れないし」


 なんて聞いてみたけれどおばけちゃんは首を傾げるだけ。火の玉も同じように傾いているのでおばけちゃんの動きとリンクしているらしい。やっぱり可愛い。


 さて、盗賊さんの移動はやっぱり、シーツか何かにくるんで運ぶしかないかな。屋敷の物越しなら触れることが分かった今、確実に追い出すことが可能だ。でもこの人たち体格しっかりしているから運ぶのも大変そうだ。しかも運んでる最中に起きちゃうかもしれないし。どうするのが正解なんだろう?


 思わず座り込んで考え込む私に、おばけちゃんは何かを差し出した。


「きゅっ!」

「へ?」


 それは、おばけちゃんの大切にしていた木の板だった。


 反射的に受け取ってしまうけれど、これを一体どうしろというのだろう。おばけちゃんの様子を見ても、ただ嬉しそうにふよふよ浮いているだけ。相変わらずの可愛さだけど、わざわざこれを渡してくれたのだ。きっとこれには意味があるのだろう。


 とりあえず板を観察してみる。彫刻としての価値も高そうな木の板には、赤く輝く宝石が嵌め込まれており、わずかな光を反射してとても綺麗に輝いていた。


 芸術的価値は高そうだけど、これにはいったい何の意味が・・・って、ん?


「・・・あれ?側面に切れ目?」


 木の板の側面。そこには板の側面をぐるっと囲うように引かれた切れ目があった。一か所に留め具のようなものも見え、私の中でとある予想が立てられる。


「もしかしてこれ、開くの?」

「きゅっ!」


 おばけちゃんがうんうんと頷いた。どうやら間違いないらしい。となると、これを開くとこの状況を打開できるような素晴らしい何かがあるのだろう。


 さて、この中にはいったい何が―――


「・・・あり?」


 開かない。もしかして力が弱かったのかな?そう思って多少力を入れてみても、開く気配は感じない。壊れない程度に叩いてみても、引いてダメなら押してみろ精神で押し込んでみても、ビクともしない。・・・本当に開くの、これ?


 思わずおばけちゃんを二度見する。おばけちゃんは「きゅっ」と手をあげながら頷いていて、こちらをキラキラとした目で見ていた。どういう意味なのかはさっぱり分からなかったけど、何かを期待するような視線を感じる。もしかしたら私がこれを開けるのを待っているのかもしれない。そう考えると急いで開けてあげたいけれど、そもそもどうしてこれは開かないのだろう。


 なんとなく板を観察していると、金属製の留め具が目に入った。錆びているというわけでもないし、いったいなぜ開かないのか。


 と、そこで留め具に何かが引っ掛かっていることに気が付いた。


 傍から見れば絶対に分からないような細い糸。


 ・・・が、ぐるぐるに巻き付いていた。


 それはもう、絡みに絡まりあっていたのだ。


 まるであやとりみたいに。


「・・・はい?」



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