キレました。
「きゅっ!?」
「あ、おばけちゃん大丈夫?」
壁にぶつかって目を回していたおばけちゃんが目覚めたので声をかける。しかしおばけちゃんは再び盗賊たちを視界に入れるや否や、彼らに突っ込んでいった。
「きゅうっ!きゅううっ!」
「ちょっ、おばけちゃん!?」
さっきまであんなに怖がってたのにどうしたの!?心配にはなったが、次の瞬間に何となく理由が分かってしまった。
おばけちゃんが手を伸ばしているのは盗賊たちが持っている先程の箱だ。
多分、あれを取り返したいのだろう。もしかしたら相当大切なものなのかもしれない。必死に短い手を伸ばして攻撃を試みているが、努力空しく彼らに触ることすらできず、すり抜けている。それでも諦められないらしく、箱を引っ張って抵抗している。でも駄目だ、力が圧倒的に足りてない。
「なんか妙に引っ張られる気がするんすけど、気のせいっすかね?」
「いいからさっさと開けろ」
私が取りに行けば取り返せるかもしれないけど、突然箱が勝手に動いたら怪しすぎる。一層警戒されてしまうかもしれない。
私がどうすれば良いのか決めかねていると、とうとう彼らは、おばけちゃんが大切にしていたであろう箱を開いてしまった。
「何すか、この四角いの」
「中身はこんだけ、か」
箱の中には四角い板のような物が入っていた。木彫りで模様が彫ってあり、芸術面でも価値が高そうな代物だ。これがおばけちゃんの大切なものなのだろう。
「きゅっきゅうっ!!」
必死に手を伸ばし、それを取り返そうとするおばけちゃんだが、彼らに認識されることすらできない。
思わず私も拳を握り込む。
「お、これ後ろに宝石が嵌め込んでありますよ!売ったら金になるんじゃないっすか?」
「きゅうううううっ!きゅうっ・・・!」
おばけちゃんの叫びが脳内に焼き付いて離れない。
私だって、大切なものを奪われるなんてごめんだ。抵抗したくても抵抗できないうえ、あっけなく大切なものを取られてしまうのは、いったいどんなに辛いだろう。
私の第二の人生だって、私が抵抗しようもない赤子のときにあっけなく終わった。神様だって助けてくれるわけもなく、あんな仄暗い部屋で死んだのだ。
本当に理不尽だ。
理不尽すぎて・・・
・・・・・なんかイラついてきた。
何で私、二回も死んだ後でさえ苦労してるんだろう。
前世でもあのダメ親父に苦労していたっていうのに。
私の脳裏に過るのは、前世、あのダメ親父が構ってほしいあまりに起こしたとある騒ぎのこと。
ある年のの夏休み、さっさと宿題を終わらせた私は早々に部屋に引きこもった。何せ、漫画をぶっ通しで読める最高の機会だから。やることは全て終わらせ、邪魔するものは何もないはずだった。しかし、せっかくの休みにスルーされ続けたあの親父は、腹いせに私の漫画を取り上げたのだ。
『ほらほら、漫画を返してほしけりゃパパとお出かけしよーな?』
プツン。
「そんなもの、許せるわけないでしょおがあああああああああああ!!!」
久しぶりに思い出したその事件は、私から理性を取っ払うのに十分だった。
近くにあった小さなテーブルを持ち上げ、盗賊の頭へと振りかぶる。テーブルに置いてあった花瓶が、カシャンと音を立てて割れた。そして、へらへらした男の頭にテーブルの角が直撃した。
「ぐえっ」
「なっ!?」
盗賊が手を放して行き場を無くした板は、地面に向かって落下していく。それを高速でキャッチし、彼らから距離を取った。
そして、再び物陰に隠れる。
「っしゃあ!」
思わずガッツポーズを決める。
懐かしいなあ。あの時もあのクソ親父から実力行使で少女漫画を奪い取ってやったのだ。頭をぶん殴って、怯んだ拍子に足の間を思いっきり蹴り上げてやったけど、しばらく蹲ってたっけ。ははっ、ざまあみやがれ。
そして私は、くるりとおばけちゃんの方を振り返る。
「おばけちゃん、取り返してやったよ!」
「きゅうう!きゅう!」
おばけちゃんに渡してあげると、くるくる回って喜んでいた。そして何度も何度もお辞儀をしてお礼でも言うかのように「きゅっ!」と鳴いていた。
「何なんだ、突然机が浮き上がったぞ!?っつーかお前はいつまで寝てるつもりだ、さっさと起きろ!!」
盗賊の親方さんは驚きに目を見張いたが、すぐさま倒れた男を蹴り上げる。
「う、うぅ、まずいっすよ、ここはきっと悪魔の館っすよぉ・・・」
「そんなわけねえだろ!おそらく誰かが魔法具か何かで攻撃してるだけだ!そいつを探し出せ!魔法具は高値で売れっぞ!!」
あ、やば。完全に後のこと考えて無かった。案の定すごい警戒されている。何かいることに気づかれてしまったし、ちょっとまずいかも。いや、私たちが見えないことには変わりないんだろうけど、流石におばけちゃんの持っている板は見えるだろう。
とは言ってもこいつらに触ることができない以上、どうすることも・・・ん?
「あれ?さっきこの人ぶっ倒せたよね?」
確か近くのテーブルを持ち上げて殴りかかったんだけど、そのときは見事に攻撃が的中していた。
・・・そうだ、この屋敷の物なら私も触ることができるんだった。そしてそれは、相手も同じなわけで。
思わずニヤリと笑っておばけちゃんの方を振り向く。おばけちゃんはそんな私の様子にこてんと首を傾げた。
「ねえ、おばけちゃん。コイツらにちょこっとだけ、おしおきしちゃおっか」
次回、幽霊の逆襲。