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異世界転生してました(過去形)。

 


「一回状況を整理しましょう。ええ、そうしましょう」


 ようやく落ち着いた頃、現状を整理することにした。


 まず、私は異世界転生を果たした。それは間違いない。私だって流行りの異世界転生ものだって読むので、それくらいは分かっていた。よくある大型トラックに轢かれ、気づいたときにはおくるみの中の赤ちゃんだったのだ。これが異世界転生以外の何だというのだ。


 だけど異常性に気づいたのはすぐだった。周りに誰もいなかったのだ。助産婦らしき人も、父親らしき人も、母親らしき人でさえも。こんな赤子を放置する大人がいるだろうか?


 そして場所もおかしかった。ほとんど真っ暗で、ぼんやり燃える蝋燭しか明かりらしき明かりがない。それに、私を中心にどす黒い魔法陣らしきものが広がっていた。


 紛れもなく、異常だった。


 そして間もなく、錆びた鉄のような扉から黒いフードの男が入ってきて、ゆらり、ゆらりとした足取りでこちらに向かってきたのだ。


 その手には柄に真っ赤な宝石が嵌め込まれたナイフを手に持っていて。ギラリと反射した銀色の刃には目を見開く赤子の姿が映って。


 そのまま男は私の心臓をナイフで突き刺したのだ。


 そこで私の意識は暗転。


 最期に見たのはナイフに映る自分の姿と、赤く光った誰かの目だけ。



「――ええ?普通に怖くない?」


 回想から戻った私は思わず震えた。少女漫画は大好きだけれど、ホラー漫画は苦手なのだ。そもそもあの場所だって何かの儀式みたいで気味が悪い。まあまだ生身の人間っぽかったから恐怖は半減だけど。


 そして現在の私は完全に幽霊状態。足は透け、ゆらゆら浮いてる私は完全に幽霊だった。まさかホラー嫌いの私が、ホラーの代名詞である幽霊になるとはね。すごいよ、生前には出来なかった感覚で空中も自由自在。今ならバク転とか三重飛びとか余裕でできるもん。何せ飛べるから。暇だったらちょっとやってみたい。


 なおナイフで刺された直後、気づいたときにはこの部屋に浮いていた。どうやらここは古い洋館の一室ようで、アンティーク調の家具が並んでいる。ベッドは大分年季が入っているが、レースが何重にも重ねられていて、お姫様が使っていたと言われても納得できるようなベッドだ。


「ホントどこなんだろ、ここ」


 ここがどこなのかも、どうしてここにいるのかもまるで分からない。パッと見た感じ、西洋風の舞台装置にしか見えないし。


 いい加減浮きっぱなしっていうのも違和感が凄いので、とりあえず床に着地してみる。足は透けているけど、感触はあるらしい。そしてなんとなく部屋の隅に置かれた大鏡の方へと向かった。


「そして一際目に入るのが、この大鏡、か」


 隅に置いてあるくせに、存在感が半端ない大きな鏡。私の全身が映るほど大きな、アンティークの鏡。


 ・・・もう一度言おう。私の全身が映る、大鏡だ。


「幽霊って、鏡に映るのね」


 そう、現在幽霊であるはずの私の姿が鏡に映っているのだ。


 とは言っても、現代日本の私の姿ではなく、西洋風のお嬢様のような姿だったけど。場所も相まって本当にお貴族様にでもなったみたいだ。恐らく生まれて一瞬でお亡くなりになった転生後の私の姿だろう。刺される直前に、ほのかな光で反射したナイフに姿が映っていたのだ。年齢は大分違うけど、髪色や瞳の色が同じなので間違いない。ご愁傷様です。


 刺される前は乳幼児だった気がするけど、鏡に映る私は十五くらいだろうか?ちょうど花の高校生くらいだ。もしかしたら前世の精神が影響していたりするのかもしれない。服が真っ白なワンピースなのは死に装束的な感じだろうか。ともあれ、まともな衣類を着ていて助かった。


 それにしても前の私は平凡な黒髪黒目だったけど、今の私は緩くウェーブのかかった金髪に、ほんのり青みがさした綺麗な碧眼。


 めっちゃお姫様である。


 その瞬間、私の脳裏に天啓が走る。


「え、私もしかして物語のヒロインなんじゃない?」


 よくあるよね、異世界転生して恋に落ちる令嬢の話とか!え、前世で叶わなかった少女漫画みたいな恋が、今度はできるっていうの?最高じゃん!


 え、そうなるとお相手はどうしよう、やっぱり王道の王子様とか?いやでも幼馴染設定っていうのも捨てがたい!従者との身分差の恋も、義弟とか義兄との禁断の恋っていうのも萌えるわね?何よりも大事な要素としては溺愛!これは欠かせないわ!ケンカップルものも好きだったけど、やっぱり一途な溺愛ものが良い!あ、でもこの見た目なら逆ハーレムも夢じゃない?あんなの現実に起こるわけがないって思ってたけど、今世ならいけるのでは?って、だめだめ!私は一途に誰かを愛したいの!あ、でもライバル出現は少女漫画に欠かせないし・・・。


 一体どんな素敵な恋が待っているんだろうと浮足立つ私。妄想に妄想を膨らませるうちに、現実でも私はふよふよ浮き上がっていた。それに気づいたとき、私は膝から崩れ落ちた。


 ―――そうだ、私すでに死んでた・・・!!


 私の心躍る恋は始まる前に終わっていた。絶望である。




アンティークって良いよね、アンティーク(うろ覚え)

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