それでも奴は生意気だった。
「そう言えばここって結局何なんだろ?」
恐らくあの鏡の中のようだけれど、どういう場所なのか全然分からない。とりあえず困ったときは探索だ。
「とはいっても何もないけど」
どうやら正方形で一部屋分くらいの空間しかないうえ、辺り一面真っ白で家具も何もない。さっきまでの屋敷と違ってマジで何もないのだ。
・・・何のための場所なの、ここ。
壁に触ってみても特に何の変哲もない壁で、ぶち破ることもできそうにない。というか、全面真っ白なせいで頭がおかしくなりそうだ。ここ、精神修行場か何かなの?
「きゅきゅっ」
「ケケケッ」
楽しそうなおばけちゃんたちを見て少し和む。
・・・っていうか、おばけちゃんたちも白いせいかちょっぴり見えにくい。今は上でふよふよ楽しそうにじゃれ合っているようだけど。
とりあえず癒しを堪能するべく壁に寄り掛かる。なるほど、この位置ならば可愛いおばけちゃんを見たい放題だ。
と、思ったのも束の間、突然おばけちゃんたちが視界から消えた。くっ、多分背景と同化しちゃったな。でもほんのり色味が違うので目を凝らせば見つかる・・・はず、なんだけれど。
目を凝らしてもおばけちゃんたちが見つからなくて。というよりは何だろう、壁が近づいてきているような・・・?
「わぷっ」
突然迫りくる何かに私の顔面が激突した。とは言っても大した衝撃も無く、むしろもちっとしたような感触が来る。
・・・何だろう、凄いデジャヴ?
思わずその白いもちもちを掴む。それは間違いなく、もう一匹のおばけだった。何故か目を瞑っているけれど。
「まさかの三匹目・・・!」
もはや驚きよりも興奮が先に出てしまった。だってそうでしょう?可愛い子がまた増えたのだ。テンションが上がっても仕方ない。
「ねえ、君はどうしてここにいるの?おばけちゃんたちとはお友達なの?」
言葉は通じないだろうとわかっていても聞いてしまう。これがおばけちゃんだったらおばけちゃんなりに精一杯伝えようとしてくれただろうし、生意気おばけくんだったならそっぽを向いたりしたのかもしれない。
しかしこの子は、全くもって言葉に反応することが無かった。
「・・・・・・?」
流石に疑問に思ったので顔を覗き込んでみる。というかこの子、ずっと目を瞑っている。ってことはもしかしなくても・・・。
「・・・寝てる?」
確認のためにつついてみる。やっぱり反応がない。てっきりこっちに向かってくるから起きているものかと思ってた。浮きながら寝るなんてできるんだね。凄いな、君。
でもせっかくだし布団とか持ってきてあげたい。なんかさ、眠っている姿のぬいぐるみとかって、お布団かけてあげたくならない?まさに私は今その状況。それにお布団の上の方がきっとよく眠れるし。・・・いや、幽霊的にはむしろ邪魔かも?
「スカーフとかあればよかったな・・・」
ぼそりと呟いた瞬間、私の頭に何かが直撃した。なんか私に色々当たり過ぎな気がする。もはや運良いのかな、私。
さて、飛んできたものはと言えば小さな布製のボールだ。そして飛んできた方向には、おばけちゃんたちがいた。
「ケケケケケッ」
「きゅっ!きゅきゅー!」
どうやらあのおばけくんが私にこれを当てたらしい。実に生意気である。おばけちゃんはそんなおばけくんを叱っているらしい。まるで「めっ!」とでも言っているかのようだ。こっちは実に可愛い。
とりあえずあの生意気おばけくんに投げ返してやろうかとも思ったが、おばけちゃんに当たったらいやなのでこれを握りつぶすだけにしておく。案の定これに気づいたおばけくんが少しビクついているようで、効果はあった。
それにしてもこのボール、もちもちだなぁ。まるでおばけちゃんたちのあのもちもちボディそっくりである。でも中身はどうやらただの綿のようだが。前世、可愛いぬいぐるみを愛でていた私からすれば綿かどうかの判別くらいつくのだ。
なんて思っていたのも束の間。
私の意識がこのボールに向いたことに気づいたのだろう。
おばけくんは「隙ありっ!!」とばかりに手をこちらに向けてきた。
それと同時に、私の真上に大量のボールが現れたのだ。
「へ?」
現れた大量のボールは私へ向かって落下していく。
そして私は、その大量のボールに飲み込まれた。
「クッケケケケケケェ!!!!」
「あんにゃろ・・・!」
ボールで視界が塞がれてもなお、あのおばけが大笑いしているのが丸分かりだ。思わず大量のボールをかき分け、立ち上がる。おばけくんは未だに大笑いしている。
そこまで笑うなら仕方ない。私も本気を出してやろう・・・!!
ちらりとおばけちゃんに目配せすると、何かを察したおばけちゃんはスススーっと離れていった。
そして足元に散らばる大量のボールを掴む。そして、未だに大笑いしている生意気おばけにボールをぶん投げた。バビュン、と音を立て、おばけくんにボールが向かう。
そして、床で大笑いしていたおばけくんの真横をボールが通り過ぎた。
「けぇ・・・!?」
チッ、外したか。
おばけくんはカクカクになりながらこちらを振り向く。そんな奴に向けて、私はさらにボールを構えた。
「悪・霊・退・散!!!」
「けけぇ!!!」
それはさながら、一方的な蹂躙であった。
約数分後。
大量のボールがてんこ盛りに乗せられ、既にボールに埋もれた生意気くんを放置し、私は三匹目のおばけと向き合っていた。あれだけドタバタしていたにも関わらず、この子は未だに目を覚まさない。
「おばけちゃん、この子って何で寝てるの?」
「きゅ?」
おばけちゃんは首を傾げてふわふわ浮いている。この反応は分からないってことかな?まあ可愛いから許す。
でもやっぱりお布団とか、羽織れる物くらいは用意してあげたいよね。屋敷のシーツじゃ大きすぎると思うし、かといって小さい布なんてないし。ハンカチの一つでもあればって思ったんだけど、何にもない。
使えそうなものはと言えば、足元に転がっている例のボールくらいか。とりあえず散らばっていたボールを一つ手に取ってみる。
「そういえばこのボール、どうしたんだろ?」
おばけくんが隠し持っていたにしても、数が多すぎる。しかもこれ、一つ一つ手縫いだ。形がそれぞれ違う。そもそも、空中から突然出てきてたよね?
念のため、おばけちゃんにも確認してみる。
「ねえ、おばけちゃん。これ、どうしたのか知ってる?」
「きゅっ!」
おばけちゃんはビシッと大量のボールに埋もれた誰かを差した。
・・・なるほど。
私は迷わず大量のボールのど真ん中に手を突っ込む。
「ウゲッ」
そこから引っ張り出したのは、生意気代表おばけだ。あからさまに嫌そうな顔をしているので、そのままぶら下げておく。
「ねえ、このボールどうやって作ったの?」
「ゲッ」
そう聞いた途端、今度は目が泳ぎだした。やはり、このボールはコイツのお手製らしい。
「この材料はどうやって揃えたの?」
「ケッ」
とうとうそっぽを向きだしたおばけくん。
・・・仕方ない。この手は使いたくなかったんだけど。
私はこの生意気くんをむんずともう片方の手で掴んだ。
「け?・・・け?」
困惑しているおばけくんに私は笑顔で告げた。
「吐くまでブン回しの刑~♪」
「ケエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
多分あと数話で一章終わります。多分。




