鏡の中で。
・・・さて。
何故か鏡に吸い込まれ、辺り一面が真っ白な不思議な場所に来てしまった私。今、そんな私はというと。
「よくも笑ってくれたわねぇ?」
「ケェェェェェーッ!!?」
私を煽り散らかしてくれたおばけを成敗していた。とはいってもおばけちゃんに似ていて割とかわいい顔していたので左右のほっぺたをむにーっとつまんでいるだけなのだが。それにしても良く伸びるなあ。
時間にして約十分、ある程度満足したので放してあげた。
「けけ・・・」
そのおばけはというと、よろよろになって頬を抑えていた。ちょっとだけ可哀想かな、と思ったけど、あれだけ笑い転げられたら誰だってプッツン来るだろう。ざまあみろ。
「きゅ?きゅー?」
「あれ、おばけちゃん?」
どこからかおばけちゃんの声がする。どうやら私を探してくれているらしい。たった数時間の付き合いのはずなのに、おばけちゃんは本当に良い子である。
「おばけちゃん?どこー?」
「きゅっ!きゅきゅー!」
呼びかけてみると、どうやら声は届いているようで、おばけちゃんの声が帰ってくる。でも、声だけはするけれど姿は一向に見えない。それに周りを見回してみても私とこの生意気なおばけくん以外には誰もいなくて。
「どうしよ・・・?」
一番簡単な方法は最初からここにいた生意気おばけくんに直接聞くことだ。とりあえずつまみ上げて情報を聞き出すのが先決か。そこで床に張り付いているおばけくんを文字通り指先で摘まみ上げて、質問してみる。
「おーい、君、ここ何処か分かる?」
「ケケケー!!」
放せ―っ!とでも言わんばかりに暴れるおばけくん。おばけちゃんとは天と地ほどの差があるよ、君。
でもまあ、やっぱり言葉は喋れなさそうだ。こちらの意味は分かるようだが、何をしゃべっているのか全く分からない。
この子から情報を集めるのは諦めたほうが良さそうだ。
とりあえずここに来た当初を振り返ってみる。
死んで転生して死んで幽霊になって、おばけちゃんに会って盗賊と戦って、板を開けたら実は鏡で、かと思ったら鏡が突然真っ白になって。・・・うん、なんかもうわけわかんなくなってきた。で、突然笑われたかと思えば鏡に吸い込まれて。
ほんの数時間で色々起こりすぎでしょ。
この真っ白な場所に来た時だって、思いっきり体をぶつけちゃったんだよね。まあでも突然落ちたら受け身なんて取れないよね、そりゃあ。せめて痣にならなければいいけど。
「ん?落ちた?」
そういえば私、ここに来た瞬間地面に激突したはずだ。地面に激突した、ということはもしかして。
「・・・上?」
思わず上を見上げる。と、鏡のような物が天井に張り付いていた。
「なにこれ?」
何せ天井なのでよく見えない。ということで幽霊特権を利用して浮いてみる。
近くに行ってみると、こことは違う天井が見えた。恐らく、私がここに来る前にいたエントランスの天井だろう。なるほど、鏡というよりは窓に近いのかも。
「君、これどういうことか分かる?」
なんとなくおばけくんの方を見る。そしておばけくんはぷいっと視線を逸らした。・・・分かってたけどムカつくな、コイツ。
諦めて鏡にもう一度向き直る。
・・・と、おばけちゃんがベターっと鏡の奥で張り付いていた。
「きゅきゅー・・・」
おばけちゃんはどうやらちょっぴりいじけているようで。ほっぺがむくれていた。子供が構ってもらえなくて拗ねているみたいな・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
しばらく脳内が停止する。
やがて私はおばけくんの方に顔を向けた。
「カメラ!!今すぐカメラ持って来てっ!!!!」
「け?」
く、やはりカメラはこの世界にはないのか!?こんな尊い場面を収めることができないというの!?
いや、あったとしても写真におばけは映るのかな?おばけちゃんの可愛さを全世界にシェアすることもできないなんてっ!
悲しみのあまり地面にへばりつく。
そんな私を見て、おばけくんは首を傾げている。
それにしても、首のかしげ方もおばけちゃんにそっくりだなあ!
いつか絶対並べて写真撮りたい・・・!
こんな可愛いのを友達に布教もできないし、家族に自慢もできないし、今更ながら死んだことが悔しい。いやでも、死んだからおばけちゃんに会うことができたわけで、内心複雑である。
思わずぐずっていると、頭に何かが乗せられた。
「きゅ?きゅきゅー?」
「ほえ?おばけちゃん?」
鏡の向こうにいたはずのおばけちゃんが、小さな手で私の頭を撫でていた。どうやら私がいきなり蹲ったせいで心配しているらしい。優しいし可愛いし最強だね、おばけちゃん。
それにしても、いつの間にこっちに来たんだろう?
「どうやってここにきたの?」
「きゅっ!」
おばけちゃんが差す方向には先程まで向き合っていた鏡だ。ついでとばかりにふよふよ浮いて実演して見せてくれた。おばけちゃんが鏡に吸い込まれては現れてを繰り返している。やはりあそこから私も落ちてきたらしい。おそらくこの繋がっている先はあの鏡なのだろう。なるほど、だからあの鏡を特別大事にしていた訳か。
私が一人納得していると、おばけちゃんがおばけくんの存在に気づいた。
「きゅっ!」
「けけっ」
お互いに片手をあげて挨拶しているようだ。感じとしては「よっ!元気だった?」くらいの軽さだったけど。というかやっぱり知り合いだったんだ。
それにしてもおばけ×二だと呼び方紛らわしそうだな。ちゃんとした名前があるのか分からないけど、せめてニックネーム的なやつは考えとこう。
私は秘かに決意した。




