糸の意図。
思わず思考が停止する。だってこれ、明らかに意図的に絡ませたみたいになっている。絡んだ糸が星を三つ作っていて、もはやアートの域だ。
数十秒の空白の内、私は何とかおばけちゃんに振り返った。
「これ、盗賊の誰かにやられちゃったの?」
おばけちゃんはううんと首を振った。まあそうだよね、さっきの盗賊はこんなことしてなかったし。それに他の盗賊がいたにしてもこんな金になりそうな物を放って糸で遊ぶわけがない。そんなまぬけな盗賊がいたら是非とも見てみたいものである。
「他の誰かにやられたの?」
おばけちゃんはまた首を振った。まあそうだよね、あんな床下にあるし、普通の人が気づくわけがないからね。そもそもこんな古びた洋館に来る人自体少なそうだし。
もうそうなってくるとこうなった理由が全く分からない。
糸、絡まる、芸術、なぜ、頭の中で検索してもそれっぽいものは出てくることなく、ただただ疑問に思うばかりだった。
あ、そういえば小さい頃、お母さんの編み物用の毛糸を転がしてたらいつの間にか自分の体に絡まってたことがあったなあ。買い物から帰ってきたお母さんがビックリしてたっけ。
思わず思い出し笑いしかけたのを必死にごまかすために口を開く。
「じゃあ、糸で遊んでたら偶然こうなっちゃったの?」
冗談半分でそう聞いてみる。偶然にしては絡み過ぎているし、たぶん違うだろう。どうやったら偶然星三連の不思議なあやとりができるって言うんだ。明らかに何か不思議な力でも働いたのだろう。そう思っておばけちゃんの方を見た。
・・・のだが、おばけちゃんは目をキラキラさせてこちらを見ているではないか。
まるで、子供が「どうしてわかったの!?もしかしてエスパー!?すげー!!」とでも言っているかのように。
「きゅきゅー!!」
どうやらマジらしい。
・・・一体何をどうやったらあんな絡まり方をするのだろうか。ちょっと気になりもしたが、とりあえず今は置いといた。
「ま、まあひとまずこの糸を切ろうか。切れそうなもの取ってくるね」
「きゅっ」
とりあえず盗賊の持ってた荷物を漁ることにした。あれだけ屋敷の物を綺麗に盗み取ったのだ。中にハサミの一つや二つ、あるだろう。
「ホントはこのナイフが使えれば手っ取り早いんだけど、すり抜けちゃうのよね」
床に散らばったナイフ四本をちらりと見る。
盗賊たちの持っていたナイフは、私たちが触れることはできない。まあそれは逆に、ナイフで刺されてもすり抜けるので無敵状態をキープできるということなのだが。いやあ、最初にナイフで刺された時はビックリしたなあ。おかげで幽霊無双できたけど、代わりに自分で使うことができないので不便なところも多いのだ。
屋敷の布越しなら確かに触れることはできるが、正直使いにくいし。それなら鞄をひっくり返すために使ったほうが便利だ。
・・・ということで、早速布越しに盗賊さんの鞄をひっくり返した。チャックとかボタンとかついてたらめんどくさかっただろうけど、幸いにも安物の布鞄だ。
ひっくり返した鞄からは、カラカラと音を立てて物が落下していく。
主に宝飾品がメインだが、中には確かに実用品も入っていた。中には盾やナイフや弓なんかも入っている。・・・どれも触れないけど。この中で触れる物はブローチやらネックレスやら、売れば高そうなものばかりだった。
やっぱりこの屋敷から持ち出された物はほとんど宝飾品ばかりらしい。
つまりどういうことかというと、私たちが使える刃物が無かった。
「もうちょっと何かないわけ?」
やけくそにひっくり返した鞄の中をのぞいてみる。まあそんな都合がいいことなんてあるわけないのだけど。案の定というばかりか、奥底にきらりと光る何かが見える。どうやら最後の一つも宝飾品らしい。宝石が至る所に散りばめられた金細工。実に高そうである。ちなみにコイツ、ゴテゴテと付けられた宝石が縫い目に引っかかって落ちなかったようだ。運のいい金細工ですこと。しかたないので拾い上げることにする。触れることができるので、屋敷の物だろう。
ひょいっと拾い上げてみて、はたと気づく。
「あれ、これハサミじゃん!」
そう、この金細工、ハサミの形になっていたのである。最後の最後で何という幸運!まあ、使い心地はとてつもなく悪そうだが、糸を切るくらいなら申し分なさそう。まあ、金製のハサミに宝石を付けまくるなんて正直言うと正気とは思えないのだが。観賞用としてなら良いかもしれないが、実用性は皆無である。金より鉄の方が丈夫だしね。
私がハサミを見つけたことに気づいたおばけちゃんは、私に向けて板を差し出してきた。
「きゅっ!」
「ナイス、おばけちゃん!じゃあ糸切っちゃおっか!」
早速糸にハサミを潜らせ、チャキン、と切る。思ったより切れ味は悪くないようで、綺麗に糸が切れた。
さて、ようやく本題に戻ってきたが、いったいこの中には何があるのだろうか?厚さ的には紙くらいしか入らないだろうし、何か情報が書かれているのかもしれない。
好奇心八割、不安二割で板を手に取った。




