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甘酒
二
頼んだ甘酒を二人前ヒコイチにとどけた店の女は、愛想はいいのに、人足の男をみることもなかった。
いや、みえてねえのか・・・。
冬の薄い陽があたったものにはみな影がつくが、男にはないことにきづく。
年寄りが気にする風もなく、甘酒のみたされた地の厚い湯呑を両手でかこい、ず、と口をつけた。
「あの西のお堀もあわせてよ、あのへんはぜんぶ、沼地だったってのを、覚えてるか?」
セイベイの顔をのぞきこむように男がきくのに、ヒコイチも、そうなのかい?と年寄をみる。
「 そりゃ、ずいぶんとまえのはなしだねえ」
あたしのじいさんの頃じゃあないか、と年寄りはまた甘酒をすすった。