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ご隠居に
首のうしろをかいたヒコイチは、寒気がすぐにおさまったのを考えながら、このままはなしをきくかどうかを迷った。
きいたら、セイベイをこのまま巻きこむことになる。
「 いや、あんた、迷ったってしかたねえさ。 おれがはなしがあんのは、このご隠居のほうなんだから」
人足の男にいわれてハタと気づく。
そうか、先に声をかけられたのは、セイベイだ。
巻き込まれたのは、おのれのほうか。
「 そうかい、ようやくあたしも、カンジュウロウの《お仲間》に認められたのかねえ」
なんだか、ひどくうれしそうな年寄のわらいに、ヒコイチは何かいいたかったのに、なにもいえなかった。