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気づかずに
ああ、そうか、とダイキチはおおきくうなずいた。
「 それで、―― ずっと待ってたのかい?」
「うん、ととさんが、これでへいきだ、っていった」
『 どうか おたのみもうしあげます 』
頭をふかくさげた男の姿をおもいだす。
「だけどな、・・・そのあとととさん、まだこねえんだ。ここが、わかんねえのかなあ。 ―― ととさんはな、おれが、沼に落ちてから、毎日沼のとこにきて、おれのことよぶんだ。おれ、ととさんの背中たたくんだけど、気づかねえんだよ」
「それは・・・」そうか。
この子は、沼におちて亡くなったのだろう。
それにも気づかずに、父親の背中をたたくということか。




