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間違いねえ
それをみてヒコイチはつづける。
「 《不思議ばなし》でもよ、堀さらいのまえのひに、掘りに住んでる大鯰なんかが人になってやってきて、ひきあげた堀の主は殺さねえでくれってはなし、きくじゃねえですか?」
「 ―― まあ、どこの堀でも、鰻や鯉なんかで、ありますなあ」
ダイキチもうなずくが、まだ顔はかなしそうなままだった。
「 そういうもんで、あのご神木も今度こそってんで、はなしがとおりそうな『西堀のご隠居』に頼みにきたんだろなあ」
ひとりうなずいて湯呑に口をつけようとして、「 ―― 藁で、とめていたな」と、思い出す。
みなが何もいわないので、「髪も着物も、」と湯呑を持つ手を、たしかめるようにうごかす。
「 ―― 藁をよったみてえなので、ゆわいてたろう?ほら、ご神木にもしめ縄がまかれるじゃねえか」
口にしてみたら、間違いないようなきがしてきた。




