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いいけどよ
「『頼まれた』って・・・、まあ、いいけどよ」
男のあの、しぼりだすような声をおもいだした。
お堀さらいの人足は勝手に集められないので、セイベイが口をきいて、ヒコイチをいれ、目当ての場所にはいれるようにしておく、と受けあった。
猪口のなかをなめつくした黒猫が、みゃあ、とかわいい鳴き声をあげてヒコイチにすりよってきた。
『 帰りにおぶってもらうのは、おめえに《おたのみ》もうそうか 』
こっちのたのまれごとはもちろん断わったが、けっきょく酒臭い猫をかついで帰ることになったのは、ヒコイチだった。




