4/70
泥臭い
「 ―― おい、あんた、うちの年寄りになんの用だい?」
つとめておだやかに、ヒコイチはその男の横にこしかけた。
泥臭い。
人足だろう男はこの寒さで下穿きもないまま着物の裾をからげて脚をみせ、ぼさぼさとのびた髪を、うしろにひとつ、よった藁でゆわいている。
首には泥が浸み込んだような汚い色の手ぬぐいをまき、同じように白っぽく色をなくした着物の帯までが、これまた、ほそい綱だった。
だが、わらじをはいた足はきれいなもので、よくみれば着物にも泥がついているわけでもない。
泥のにおいが染みてるのか?