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熱燗
この男には、女の正体がわかるのだろうか?と考えていると、さあさあ、と猪口をもたされる。
「熱燗がちょうどよくなってますよ」
炭をいれて『徳利をもちはこべる』といういれものなどもっているのが、さすがですな、とセイベイがほめる。
こういうときみせびらかすために持っております、とダイキチが返し、センセイが、買ってつかうのはきょうが初めて、といれものから徳利をぬきとった。
ダイキチもセイベイも、たしなむほどしか酒をのまないことを知っているヒコイチは、わらいながら猪口をさしだす。
三人の男の猪口を見たし、最後にひとつみたした猪口を、人足の男のまえにおいた女は微笑んでうなずき、ヒコイチに、ついでいただけましょうか?と自分の猪口をさしだした。
あたたかい酒の香りをたのしむヒコイチは、人足の男が泣きそうな顔で、自分のまえにおかれた酒をみつめているのに気づいた。




