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茶屋の縁台
ヒコイチのとまどいをうけたセイベイは、おまえはそういうところは人並みだねえ、と感心したのかあきれたのかわからぬことを言って、膝の上の黒猫をなでた。
「しかたねえからむかえにくる」と、ヒコイチが言ったことで、この遠出は、《ヒコイチが誘った》ことになったのだ。
年寄りはおもいのほか足腰がしっかりしており、それほど気をつかうこともなく、歩き通して、目当ての梅林ちかくまでついた。
梅林のそばには寺があり、その中にも立派な梅の木や、病を代わって受けてくれる地蔵さんもいるので、この季節は参道にも店がたちならんでにぎやかだ。
手前にあった茶屋の縁台に年寄をおき、忙しそうな店の奥にむかい甘酒をたのんで戻ったら、いつのまにかむかいの縁台に男がいて、その男がセイベイに身をのりだしているところだったのだ。