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混んできた
「その嵐ってのがまた、よくなかった」
「そんなひどいのがあったのかい?」
きいた覚えがないね、とセイベイが腕をくんだ。
人足の男がなにかいいかけ膝をたたいたとき、「あのお」と店の女が声をかけてきた。
「混み合ってまいりましたので、こちらのお席、よろしいですか?」
ヒコイチとセイベイで、向かい合うように乗っ取っているふたつの縁台をさされ、こりゃすまねえ、とあわてて立ち上がったヒコイチは、人足の男が消えているのに気づく。
「ああ、長居しすぎたね」
年寄りもすぐに立ち上がると、ヒコイチをみてから、人のふえた参道のむこうをみた。
人足の男が、にこにことこちらをみて、待っている。




