2/70
梅を見に
ヒコイチが住む長屋の近くの梅林は、毎年多くの見物人たちがあつまる場所で、あたりのひとたちはみんな知っているのだが、すこしはなれた所にすむ人にとってみれば、みにゆくほどの名所ではないと思われているようだった。
いやいや、そのへんの植木屋に手入れされた庭先とは、梅の木のかずがちがうんだ、とヒコイチがめずらしく力をいれて話したせいで、おまえがそこまで言うのなら、と、隠居はあしをのばして、見にいきたいといいだした。
「 や。 ・・・いいけどよ、ここからじゃあ、ちょいとかかるぜ」年寄りの足なら。
「あたしはおてんとうさまより先に起きてるから、早出しよう」
「・・・まさか、一人で来ようと思ってねえか? そりゃあだめだ」
さすがに、こんな大店の年寄りが、ひとりでふらつくのはないだろう。