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おいなりさん
人足の男は、うんうん、と二度うなずくと、またはなしをつづけた。
「 ―― その、沼と村とのあいだにな、お稲荷さんがまつられてたんだが、このお稲荷さんてのが、ほら、 ―― よく百姓たちが家の敷地の中に、自分たちだけの《おいなりさん》をまつるだろう?」
「まあ、豊作を願ったり、商売繁盛を願って、家のそばにたてるのも、あるにはあるね。 あたしら商売人はたいてい、どこぞの神社でわけていただいたのをいれるわけだが、お百姓のなかには、なにかありがたい石だとか、いただいたお札なんかを洞にいれて、それを《おいなりさん》としてまつることもするだろうさ」
もとからいちばん身近で、いちばん正体があやしいかもしれないね、とセイベイは腕をくんでつけたした。
「 『神様』じたいは別なのに、《キツネ》をまつってると思ってる人もいるだろうしね」
これに、ヒコイチは驚いた。




