第9話:契約
「では改めまして私は東京都調布支部長田中と申します」
冒険者ギルドにやってきた俺は、喫茶店オーナーに休むことを一方的に伝えて椅子に腰かけた。
「さっそくですが、聖さん冒険者になりませんか?」
田中は開口一番、真剣な瞳で俺を見つめた。
冒険者ギルドにとって強い人材はどれだけ居ても困らない。 それがダンジョンを攻略できる猛者となれば喉から手が出るほど欲しいだろう。
しかしその前に一つ、俺は確かめたいことがあった。
「あの答える前に一つ聞いても?」
「ええ、なんでも聞いてください」
「特別弱いモンスターばかりが出現するダンジョンというものは存在しますか?」
田中は少し考えて首を横に振った。
「いえ聞いたことがありません。 逆に特別強力なモンスターが出現するダンジョンは存在しますが……」
「そうですか……私の攻略したダンジョンが初の事例かもしれませんね」
「というと、もしかして……?」
「ええ、弱かったんです。 一階層はもちろん、最終階層のモンスターまで全てが……その証拠に未経験で、大したスキルのない私でも無傷で攻略できましたから」
――もしかしたら俺が強いだけだったのでは――頭の隅にそんなバカげた考えがチラつくが、過去の失敗がその考えを否定していた。
「にわかに信じられませんね……一度確認してみますか?」
「どうやって確認するんですか? 模擬戦でもしますか?」
「それも一つの手ですが、もっと分かりやすく簡単な方法があります」
田中はそう言って水晶を取り出した。
「これはあなたのステータスを写し出す魔道具です。 手を当ててください。 そうすればあなたの現在の実力が分かります」
「ステータスがあるなんて聞いたことないですけど……」
「レベルがあることまでしか公表していませんから。 ただでさえスキルで差別する風潮があるので」
「ステータスなんて公表すれば差別は酷くなりそうですね……」
「そういうことです。 なので後出しですが、こちらにサインをお願いします」
田中はそう言って契約書を取り出した。
彼の視線からは断ることを許さないという圧力を感じた。 少々の理不尽は感じつつも、それ以上に自分の状態を知りたかったので俺は素直にサインするのだった。
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