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epilogue:戻らない君と生きていく/墓標、振り返れば





『まもなく発車いたします』


 ベルが鳴り、人々は忙しなく電車へ乗り込んでいく。


 流れていく街の景色は至って平和であり、まるで夢から覚めたかのようにファンタジーの痕跡は消え去っていた。


 一星夜子が消えてから一年経った。


 彼女は未だに見つかっていない。

 俺の前から消えただけで、どこかで元気にやっててくれと心から願っている。


「ねえ、あれ何?」


 ヒナが指さした先には、『世界回帰教』の看板が見えた。


「ああ、あれはこれから行く教会の宗教だよ」

「ふーん、そっか」


 黒いサンタクロースが死に、ダンジョンが日本から消えたことで世界回帰教は一気に活動が下火になっていった。


 後から知ったことだが、黒いサンタクロースは世界回帰教の崇拝対象であったらしく、彼らの目的も彼女の能力ありきだったらしい。


 彼らは現在、いつの日か来るとも知れない変革に備え、持たざる者が以前どんな差別を受けていたか、世界はどうあるべきかを発信する健全な団体に変貌している。


「意外だな……《《聖さん》》って神とか信じるんだ」

「なんだよ、それ」

「ん~なんか困ったことがあっても自分でなんとかしそうじゃない?」


 ヒナの記憶はまだ戻っていない。


 結局、両親とは連絡が取れなかったため俺が保護者として彼女を引き取った。


 彼女は引き取るという年でもないのだが、精神面の不調が生活に支障をきたしているため、社会復帰できるまで支援するという話になったのだ。


「うわー! 海だ!」


 あれから彼女はずいぶん明るくなって、以前のヒナに少しずつ近づいてきている気がする。


 しかし彼女にとって今の俺は突然現れたあしながおじさんでしかない。 記憶が戻らない限り、感謝はされどそれ以上の関係にはなることはなさそうだ。


 故に彼女と別れるその日まで、今まで彼女からもらってきた勇気をお返しできたらと思って過ごしている。


――bbbbb


『お嬢様』


 スマホのメッセージを確認して、俺はヒナに尋ねる。


「あ、お嬢からだ……ドイツのお土産何がいいかって」

「えー? ビール? ソーセージとか?」

「お前、酒呑みかよ……」


 スマホをでドイツの検索をかけながらヒナは悩み始めた。


 あの後、遅ればせながら俺はお嬢様との契約を果たした。

 お嬢さまは強くなったがさらに強さを求め、現在はクランを立ち上げ、人材の発掘に注力している。


 そもそもお嬢様が強さを求めていたのは漠然とした不安を解消するためらしい。

 しかしその不安は未だに拭えないらしく、ダンジョンで強力な武器ドロップを手に入れるために海外を飛び回っていることも多い。


 界隈では『コレクター』なんて異名が付いていて、かなり名が通った存在となっていた。


 ナナやハチとの交流も続いている。

 ほとんどナナが発起人となり、連番飲みと称した飲み会が開かれるのだ。


「降りるぞ」

「うん……潮風気持ちいい」


 人気のない駅で降りて、バスを乗り継ぎ、たどり着いたのは世界回帰教の本拠地だ。


『ようこそ!』


 古びた案内看板に従って、林を抜けると丘が見えてきた。


 丘の上には一本の大きな木、それと石碑がある。


『我らが救世主はここに眠る』


 それは黒いサンタクロースの墓だ。


 俺は駅前で買った花束を、無造作に置いて手を合わせる。


 彼女は敵だった。

 けれどあの時、無理やりにも連れていくべきだったと俺は後悔していた。


 こんなことは贖罪になり得ない、自己満足でしかないことは分かっている。


 けれどいつまでも囚われているわけにもいかない。

 これからも人生は続くのだ。


 どこかで区切りはつけるべきで、思い悩むのは老後にでも取っておこう。


「さ、行くか」

「もういいの?」


 俺が伸びをして言うと、ヒナが不思議そうに首を傾げた。


「なあ、ヒナ。 あれからずいぶん元気になったしーー」


ーーそろそろ一人立ちするか?


 そう言うつもりだった。


 けれど口は勝手に言葉を紡いでいく。


「そろそろ仕事しないとな。 とりあえずバイトでも近くでやったらいい。 遠くまで通勤は辛いからさ」


 ヒナはなんだか嬉しそうに笑って頷いた。


「うんっ……もう出てけーって言われるかと思った」

「言わないよ。 好きなだけ居たらいいさ」


 常識的な判断ではないことは分かっている。

 だけど許されるのならば、いつまでも一緒にいたいーーその気持ちを見て見ぬふりをするのはもうやめよう。


 叶わないならそれでいい。

 だけど掴みにいかなければ、流れに身を任せるだけでは残るのは後悔のみと俺は知ったから。


「それじゃあ帰ろうか」

「うん」


 少しだけ来たときよりも近付いた立ち位置で、俺たちは歩きだした。


「え……?」


 突然、後ろで気配がして俺は足を止めた。


ーーそれは優しくて


ーーだけど少し恐ろしい死の気配だ。


「約束だから」


「それとずっと言いたかったことがあるの」


「ごめんなさい」


「あなたは嘘つきなんかじゃないよ」


「酷いこと言ってごめんね、お兄ちゃん」


 記憶が甦る。


 どうして気付かなかったのだろう。


「ああ、そうだったのか君は」



 



 


 


 






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最後までお読み頂きありがとうございます!


これにて拙作は完結です。

途中で投げずにここまで来れたのは、読んで下さった皆様のおかげです。


感想、ブックマーク、評価ありがとう!

予想外に多くの反応をいただけて、毎日楽しく執筆することができました。


読んで下さった方も楽しんでいただけていたのなら嬉しく思います。


以上!

今後の予定ですが、切りよく十万字まで加筆修正したり、外伝書くかもです。


既存の作品も書きたいし、たぶんまた新作書くと思うので作風(?)が気に入った方はフォローしてください!


最後に、あなたの感想をぜひお聞かせください。


批評でも全然OK!悪口以外ならなんでも有り!

また小説ページ下部にある☆より評価ポイント付けていただけますと、大変嬉しいです。


では!

再びあなたへ私の物語が届く日が来ることを願います!

有り難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お、おわったー!? お疲れ様でした [気になる点] ダンジョン周りはともかく、恋愛周りの匂わせが無限にあったのに特に何も起こることなく終わったのが気になります。 指名手配云々も解除されたよ…
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