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第52話:死の気配/はじまり





「なんちゃって。 お久しぶりです、店員さん」


 場違いに明るい声に振り返ると、大鎌を携えた一星夜子がそこにいた。


「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。 私は聖さんをどうこうしようなんて思ってもないですから」

「……」


 彼女とは顔見知りだが、そう言われてすぐに信用も出来ない。


「疑ってます? もし捕まえるつもりなら、もうしてますよ」

「確かに……」


 後ろを取っておいてわざわざ刃を引いたのだ。 現状、彼女の言葉は信じても良い、というか信じるほかないと俺は判断して息を吐いた。


「さて、お困りのようですね? よろしければ場所を変えませんか? いい場所を知ってるんです」


 かつて共に仕事をしていたときと変わらない態度の夜子に、俺は半信半疑ながら着いていくのだった――


――やってきたのはとあるマンションの一室。


「ってここ家じゃん」

「はい、私の家です。 セキュリティーはばっちりなのであなたを追ってくる冒険者たちは入れませんから、安心してください」


 ピンクと白を基調として、ところどころにぬいぐるみなどが飾られた意外と可愛らしい部屋に居心地の悪さを感じた。


「座ってください」

「いや、俺汚いからさ」


 彼女にソファーを勧められるが、正直着替えも満足にできていない俺が座ることは憚られた。

 すると彼女は思いついたように手を叩く。


「ああ、ならお風呂入ります? 着替えも用意しますし」

「いや、そんな」

「残り物でよければご飯もありますよ」

「悪いから――」


――ぐぅぅぅぅ


 タイミングが悪く腹が鳴って、俺は恥ずかしくて顔を手で覆った。


「分かった。 ありがたくお風呂入らせていただきます」

「はい、どうぞ。 ゆっくりしてきてください」


 俺は彼女の顔を見れず、逃げるように風呂場へと向かうのだった。





「美味しいですか?」

「……美味しいです」

「やった」


 俺は彼女の持っていた男性用の寝間着を借りて、残り物というには豪華な食事を口に運ぶ。


「悪いな、これ。 彼氏さんとかのだろ? 今は洗濯して返せないし」

「違います。 それは未使用品です。 私に彼氏なんていないし、作るつもりもありません」


 夜子は無表情で淡々と言った。

 その様子が恐ろしくて俺はこけしのように頷く。


「分かってもらえたようで何よりです。 ところで店員さんは、何を目的にダンジョンを攻略し続けているんでしょうか?」


 やはりギルドで俺の行動は把握されているのだろう。 そこでふとーー田中に暗殺されかかってたけど、もう大丈夫なのだろうかーー思い出した。


「……田中さんから聞いた?」

「いえ? 彼とはお別れしたんですよ。 あ、カレカノ的な意味ではないですからね?!」

「分かってますけども……まあ何もないなら良かったですよ」

「それで? どうなんです?」


 簡単に話を逸らさせてはくれないらしい。 彼女は微笑んでいるが、聞き出すことを諦めないという圧を感じた。


「私ならお役に立てることがあるかもしれないですし、ね? ね?」


 彼女の言葉が頭にすっと入ってきて、色々あって疲れたせいか、気持ちが弱っているのか自分でも驚くほど簡単に口が開いた。


「世界を元の形に戻したいんだよ」

「なるほど、だからダンジョンを攻略してるんですね。 ダンジョンが無くなればいい、と」

「うん」

「でもそれって意味があるんですか? 攻略してもその間に新しくダンジョンは出来るわけで……終わりがないと思うんです」


 反論のしようもなく彼女が言っていることは正しい。 俺も理解はしていた。 だけど愚かでも行動したかったのだ。


「一番初めにできたダンジョンってどこか知ってる?」

「えっと……知らないけど」


 急に話の方向が変わって首を傾げる俺に、夜子は楽しげな笑みを浮かべて言った。


「ある研究者によるとそのダンジョンが他のダンジョンの誕生を誘発している。 つまり全ての元凶なんだって」

「本当に……?」

「そしてその一番始まりのダンジョンーー日本における原初のダンジョンの場所を私は知ってる」


ーー知りたい?


 笑顔のポーカーフェイスを浮かべた夜子の言葉は、悪魔の囁きかもしれない。 けれど俺は頷く以外の選択肢はなかった。







 読んでいただきありがとうございます!


 面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆より評価ポイントを付けてくださると大変嬉しいです。

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