第5話:嘘と約束
「健康診断かぁ……てんちょも年だね」
「うるせぇやい」
晴間ヒナには高血圧で引っかかったと、ありそうな嘘を吐いた。
事実を言えば彼女は心配するだろう。 協力してくれるだろう。 しかしダンジョン攻略なんて手伝わせて、彼女が怪我でもしたらと思うと絶対に言いたくなかった。
「じゃあ、これは没収だね!」
「俺のつまみ……」
「私が買って来たつまみね?」
「差し入れられたんだから、もう俺のだ! 今日だけ、今日だけだから!」
「……仕方ないな~」
それから俺たちはしばらく話して解散する。
「俺はちょっと仕事してから帰るわ」
「ほどほどにしなよ? もう若くないんだから!」
もしもギルドに抹殺されたら、
もしもダンジョンに単身挑むことになったら、
こんなじゃれ合いも最後かと思うと名残惜しくなる。
「……今日は会えて良かった」
「なにそれ? 月一くらいで合ってるじゃん」
「はは、確かに」
ヒナは不思議そうに首を傾げる。 そして何か思いついたのか楽し気な笑みを浮かべて言った。
「そんなに嬉しいなら、今度……いや! 来週遊びに行こうよ」
バイト時代からヒナは俺をよく誘ってくれていた。 しかしあの時は遊ぶ元気なんかなくて、いつも断っていたことを思い出す。
「来週かぁ」
「ほら、みんなも会いたがってたし。 ねね、たまにはいいでしょ?」
「そうだな、たまにはいいかもな」
俺がそう言うと、彼女は一瞬言われたことが理解できなかったらしく固まった。
「まじで!!!!!!?」
「そんなに驚くか?」
「驚くでしょ! え、あ、やった! 絶対だよ! でも無理はしなくていいから!」
「分かった、分かった」
飛び跳ねてはしゃぐ奴なんて俺は子供かヒナくらいしか知らない。
「絶対ね!」
彼女はそう念を押して、帰って行った。
「まるで台風みたいだったな……」
俺はタバコをふかしながら、ぼんやりと物思いに耽った。
意味のない考え、過去の出来事が走馬灯のようにめぐる。
「行きてえなぁ」
一人呟いた言葉は煙とともに空気に溶けた。
諦めちゃない。 だけどちょっとだけ泣いた。
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