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第39話:ハマる/少女のスキル





「ここで十分ほど休憩にしましょう」


 少女の言葉にナナとハチは安堵の息を吐いた。


 時間を惜しんでいるのは見ていて感じるが、いくらなんでも行程がタイトすぎたのだ。


「(なあなあキュウ助、お嬢に一言言ってくれんか? キツすぎるて)」

「(いやいや、言えないですから! 本人が弱音吐いていないんだから余計に言えないですよ)」


 一般人であれば確実に根を上げるだろう。

 しかし彼女は鍛えているのか、我慢しているだけなのか、どちらにせよ雇い主が平然とこなしているのにベースを落としてくれなどと言えるわけがない。


「聖さん、あなたはスキルを使用していませんね?」

「そうなん?! てっきり身体強化系かと思ってたんやけど」

「ええと、はい。 純粋な戦闘技術で戦っています。 私のスキルは残念ながら戦闘系ではないので」

「凄まじいですね……世界がこんな風になる以前から達人と呼ばれる人たちは存在しますが、それに勝るとも劣らない――いえ対モンスターにおいては勝っている」


 俺はいつも耳飾りの効果で周囲に認識されていなかった。 故にここまで賞賛されたことがなかったためむずがゆい。


「はあ、それはありがとうございます?」

「そんなあなたがどうして最近まで喫茶店の店長として働いていたのか、無名だったのか、疑問が尽きません」

「な、なんで知って――」

「先ほど資料を送っていただきましたので」


 少女は淡々と答えるが、普通に個人情報の流出だ。 罪人といえどプライバシーは守られることが当たり前なので、おそらくコネを活用したのだろう。


(権力こぇぇぇ……)


 彼女のような権力者からすれば、俺のような一般人の情報を丸裸にするなんてわけないと思うと恐ろしく、俺は目を付けられないよう大人しくしていようと誓った。


「それでどんな鍛錬を経てあそこまでの力を手に入れたのですか? 練習モードとはどのようなスキルなのですか?」


 誓って早々、もう手遅れな気がしてならない。


「……使ってみますか?」

「他人にも使えるのですか?!」


 一瞬黙っているべきかと迷ったが、よくよく思えば隠す必要もない。 それによって彼女が強くなろうとなるまいと俺にデメリットがあるわけでもないのだから。


「はい、では――練習モード:プレイルーム」


 目の前に突如現れた扉に少女は警戒したのか体を震わせた。


「どうぞ、まあ信用できるなら」


 罪人が謎のスキルによって出した扉の先など何をされるか分からないと不安になることが普通の感覚だ。 しかし彼女は戸惑わず入っていく。


「私に何かあれば一万人のエージェントがあなたの家族、親戚、友人に至るまで血祭りにあげるでしょう」


 彼女は入る間際、優しくほほ笑みながらそう言った。


(冗談だよな……?)


 細かい部分は大げさだろうが、実際やろうと思えばやられてしまいそうで俺は企みなどなかったが何もないよう努めなければと気が引きしまる思いとなるのだった。





「もう一回お願いします」

「いや、そろそろ先に進みません?」


 プレイルームに入って結構な時間が経った。


 少女は本物と変わらないモンスターに驚き、動きに感心し、次々とモンスターを倒していた。 確かに俺も時間を忘れて練習し続けることがあるから分かるが、このスキルにはゲームのような中毒性が在るのだ。


 倒せない相手に何度も挑戦し、倒せるようになった時の達成感は言葉にしがたいものがある。 現実であれば試せなかった動きを、ここでは試せる面白さもある。

 戦闘技術の知識があるほどハマるスキルかもしれない。


「お願いします……これで最後にするからぁ」

「……分かりました。 本当に最後にしてください」


 彼女は甘えた声で懇願した。 男が好む仕草、声色、全てが計算の上で作られたものだと分かっていても勝てる気がしない。


「オーク一体でお願いします」

「練習、オーク一体」


 現れたオークを誘惑するように少女は胸を寄せて魅せた。 するとオークは興奮したように雄たけびを上げる。


「BUOOOOOOOO」


 彼女は戸惑いなく突っ込んできたオークの懐へ入り、伸ばされた丸太のような腕を掴み――


「せい」


――勢いそのままに引き倒した。


 彼女の動きは合気や柔道のようなものだ。

 どう見ても嗜み程度ではなく、相当の練度である。


「撃」


 少女は呟きながら、倒れたオークに掌底を撃ち落とした。


――ドンッッッ


 決して女性から、というか人間から放たれた打撃の音ではない爆音と共にオークは靄となって消えた。


「ああ、想像通り上手くいきましたっ!」

「……それは良かったですね」


 彼女のスキルは言霊――その言葉は力を持ち、現実へと干渉する――というかなり強力なものだ。


「普段から使えたら良いのですが」

「充分使えそうですけど」

「先ほども言いましたが――」


 言霊スキルは確かに強力だが、初期状態では他者への干渉は弱く、もっぱら自分への干渉でしか使い物にならない代物らしい。


「自分への干渉となると、接近戦になります。 そのような危険は犯せません」


 故に彼女はスキルの拡張によって言霊の干渉範囲を広げたいのだと言う。


「そもそも自分で強くなる必要があるんですか?」

「世界が再び変革しない保証はありません。 その時、社会が崩壊すれば金もコネも権力も意味を成しません。 自分を守れるのは自分だけなんです。 今が自分を救うための最後の準備期間かもしれないんですよ」


 確かに、と思いつつも俺は素っ気なく頷くだけにとどめた。


 こういう先を見れる人間が、もしもの時活躍し英雄となるのだろうと、俺は漠然と感じるのであった。







 読んでいただきありがとうございます!


 面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆ポイントを付けてくださると参考になります。


 ブックマークまたはレビューや感想などいただけたら大変嬉しいです!

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