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第32話:スキルを拡張せよ





「んじゃ、バイト行ってくるね!」

「おう、いってらっしゃい」


 訓練を終えたヒナを見送って、俺はタバコをふかしながらダンジョンを検索する。


「小さめのダンジョンがいいよな」


 冒険者が本業となったのだから、探索するダンジョンを探している――わけではない。 俺は攻略するダンジョンを探していた。 大きなダンジョンは攻略難度は上がるし、時間もかかる。


 公開されていないダンジョンを攻略することは犯罪である。


 しかし公開されていれば法には触れない。

 騒ぎになるし、冒険者ギルドもとい田中はいい顔をしないことは確実だが。


(遠隔でスキルを使用できるようになればいいんだけど)


 俺の狙いはスキルの拡張だった。


 このままヒナに付きっきりはできれば避けたい。


「後が怖いけど……後のことは後の俺に任せた」



――bbbb



 俺は田中からの着信を意図的に無視して、ダンジョンへ向かうのだった。





「それじゃあさくっと行ってきますか」


 閉鎖されて、人気のない植物園内にあるダンジョンへ俺は入っていく。


 ここは住宅街から離れている上に、規模が小さく魔物も弱い。

 初心者が探索する難易度としては適しているが、そもそもドロップなどの実入りは魔物の強さに比例していることが多いので、このようなダンジョンは不人気なのだ。


 田中からの着信が何度か鳴っている。


(さすがにこき使いすぎだって)


 俺は以前、体内にできたダンジョンを勝手に攻略した罪を犯した。 ギルドに、田中には貸しがあるが、弱みを握られたままでは今後の活動に支障をきたすだろう。


 罪を暴かれたとしても、冒険者ギルドと関係が悪くなっても、俺はこの機会に清算してしまいたかった。






「終わった」


 ダンジョン攻略は呆気なく終わった。


『おめでとうございます』


『ダンジョンクリアです』


 ダンジョンコアに剣を振り下ろすと、見覚えのあるホログラムが目の前に現れた。


 用は済んだので、俺は余韻もなくダンジョンを出る――しかし、


「おい」


 声を掛けられ振り向いて、相手の顔を確認して俺は驚いた。


「てめえ、攻略したな?」

「なんであんたがここにいる……?」


 そこにいたのは田中から受けた初仕事の際にいた口の悪い冒険者だった。


「そんなことはどうだっていい。 攻略したのはお前一人か?」


 どう答えるべき俺は悩んでいた。

 彼のスタンスは分からないが、普通なら違反行為を見つけたら報告するだろう。


「ははは、安心しろよ」


 俺が長考していると彼は考えを見透かしたかのように笑った。

 

「別に咎めたいわけじゃねえ」

「……じゃあ確認してどうするんですか?」

「スカウトだ」

「はい?」


 俺はてっきり脅しでもされるのかと思っていたので、彼の言葉を理解するまで時間を要した。


「クランに興味はねぇか? 強くて、マジなやつは大歓迎だぜ」


 依頼の時とは打って変わって口は悪いものの好意的な態度だ。 とはいえ返事に困る。


「ギルドに報告しないのですか?」

「あ? しねえよ、そんなこと。 俺も今日は攻略するために来たんだぜ? お前に先を越されちまったが」


 彼はそう言って楽しげに嗤うのであった。









 読んでいただきありがとうございます!


 面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆ポイントを付けてくださると参考になります。


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