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第31話:誰でも出来る狂った訓練法





「強くなる方法はきっとたくさんある」


 俺は少々照れくさく思いながらも、真剣に耳を傾けるヒナのために口を開く。


「これから教えることはあくまで我流であることは理解しておいてほしい」

「分かりました師匠っ!」

「……素直でよろしい」


 俺の訓練法は至ってシンプルだ。


「とにかく実践、実践。 そして痛みに慣れ、恐れを消していく」


 簡単そうに聞こえるが、これが意外としんどい。

 俺は戦いのタの字にも触れたことが無い頃に行ったせいで、よく悪夢や幻肢痛にうなされたこともあった。


 どうしてそこまでの苦しみに耐えられたのか、モチベーションを保てたのか。

 今となっては不思議だが、ファンタジーに触れた興奮と、想像した不穏な未来――モンスターによって社会が崩壊し、滅亡に追いやられるような――による焦燥がそうさせたのかもしれない。


「ヒナはモンスターハウスって知ってるか?」

「え、うん。 閉鎖された小部屋にモンスターが一定時間または量湧くトラップでしょ? 入ったことはないけど、本当に危険だから絶対に入ってはならない所だよね?」

「そう、ただ練習にはもってこいなんだ」

「えっと、まさか……?」


 引きつったヒナに、俺は微笑んでみせた。


「練習、モンスターハウスlevel3――じゃあ頑張って」

「嘘でしょ?!」

「武器は何がいい?」

「細剣! 二本!」


 俺は武器をヒナに放って、離れた位置まで下がる。


 モンスターハウスと一口に言っても、実はレベルが存在するのだ。

 レベルによって出現するモンスターの数や、時間が変化する。 3は時間無制限で、百体を倒し終われば終了となる、かなり《《優しめ》》な仕様となっている。


「あーもう! やったるわよ!」

「頑張れ~」


 まあ命の保証はあるし、体力も減らないのだ。

 スキルを失っているとはいえ、冒険者として経験があるのだから難しくないだろう。


 そう思っていたのに――


「し、死んだ……三回は死んでるよ、確実に」

「じゃあ、一回も死ななくなるまで頑張って!」

「……あれ、私師事する相手間違えたかな?」


 俺は笑顔でヒナを送りだした。


 ヒナはまるで俺が無茶を言っているように感じているみたいだが、俺は全くそう思っていない。


 モンスターハウスは数は多いが、極端に強力なモンスターは出現しないという特徴がある。 故に数の暴力に怯えず、冷静に対処すれば確実に攻略可能だ。


 恐れと、不安と、体力の消耗が剣筋を判断を、動きを鈍らせる結果、ヒナは苦戦しているに過ぎない。


「ヒナなら絶対できる。 なんせ俺が出来たんだから」



***



「俺が出来るんだから、お前も出来る――とか思ってそうだなぁ、てんちょ」


 ヒナはモンスターとにらみ合いながら、自身の元上司であり、師匠となった男を思い浮かべてため息を吐いた。


 聖剣という男は出会った当初から、自身が大した人間ではないと思い込みすぎている。

 数人分の仕事をこなし、そして継続する超人的メンタルと体力。

 誰かに蔑まれ、理不尽な目に遭って、もう無理――と心が折れそうになっても、次の日にはケロリとしている切り替えの早さ。


 どれも派手ではないが、それらを競う大会があれば優勝間違いないくらいに突出した才能だ。


「てんちょはスキル無しでも戦えるようになったって言ってたけど、戦いの才能はない人であることを祈っておこうかな」


 もしも彼が天才なら、凡人のヒナ自身が同じ訓練を行ったところで強くはなれない。


(私は当たりスキルを引いただけの凡人だから……)


 しかしこの時、ヒナは気づいていなかった。


 そもそもこの狂った訓練を受け入れている段階で、柔軟性においては常人離れしていることを。


「さあて、師匠の期待に答えられるよう頑張りますか!」


 ヒナは獰猛な笑みを浮かべて、モンスターの群れに突っ込んでいくのだった。



***









最後まで読んでいただきありがとうございます!


面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆ポイントを付けてくださると参考になります。


ブックマークまたはレビューや感想などいただけたら大変嬉しいです!

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