第30話:返信/退職
練習を終わって、ヒナが布団で寝息を立てている。
俺は薄明るくなった外の景色に煙を吐いて、黒いサンタクロースにメッセージを送信した。
『先日の話は無かったことにしてください』
『いいの? その子、一生スキルが無いことに苦しむことになるよ?』
『大丈夫です。 お気遣いありがとうございます。 失礼いたします』
返事はすぐに返ってきた。
『連絡先を削除しました』
「これで良いんだ」
俺は迷いを消すように呟いて、スキルを発動した。
「練習、モンスターハウス――――師匠が弱くちゃ話にならないからな」
少し飽きてきた非日常が、再び面白くなり始めた気がした。
〇
「私、聖剣は今月いっぱいで退職いたします」
オーナーは息を呑んで、笑った。
「いやいやつまらない冗談だよ、全く」
「冗談じゃないですよ。 本気です」
俺はそう言って用意しておいた退職届を差し出す。
「いやダメだろ!? 店はどうやって回すんだよ? お前みたいな無能はここを辞めたらどこも雇ってくれないぞ!!?」
「そうだとしても決めたことですので」
「勝手なことを! この恩知らずがっ!」
――ゴスッ
オーナーの手元にあったカップが飛んで、俺の額に当たって鈍い音が鳴る。
「失せろ! もうお前の顔なんて見たくないわ!」
「いえですがシフトは……?」
「そんなもん、お前がいなくてもどうとでもなるんだよ!?」
店を追い出された俺は、シフトに入っているバイトたちに申し訳なく思いながらも清々しい気持ちでいっぱいだった。
「ははっ、やめて正解だったな」
肩の荷が下りたというか、呪縛から解き放たれた気分だ。
俺はついに兼業から、冒険者が本業となった。
「もっと強くならなくちゃな」
冒険者になった時から、全てが成り行きだった。
けれど今は明確な目標がある。
それだけで明日が、もっと先の未来が楽しみで仕方なかった。
こんな感覚は子供の時以来かもしれない。
「ヒナには感謝しないと」
ただその言葉は、いつかヒナが強くなって、冒険者として活躍するようになる時まで取っておこうと思う。
※※※
「あーあ、残念残念」
シスターは聖剣からのメッセージを確認して笑った。
「彼に恩が売れなくて残念だねえ?」
ここは夜の病室。
窓枠に腰掛けるシスターの問いかけに、一星夜子はベッドから降りて着替えながらため息を吐いた。
「まあいいよ。 別に決別したわけじゃない。 元の関係に戻るだけ」
「確かに、確かに。 だけど君と彼の関係が後退しなくても、誰かと彼の関係が進展している可能性は考えないのかなぁ?」
「……黙れよ」
「おーこわ! 今日はご機嫌斜め? カルシウム足りてますかぁ?」
ーー斬
「あっぶないな~。 当たったら死んじゃうよ?」
「当てない、当てない。 ただの素振りだから」
どこからか現れた大鎌を振るった夜子は口元だけ微笑んだ。
「一応」
「……で、これからどうするの?」
「とりあえず退院するわ。 病院で寝てるのも飽きたしね」
夜子は書き残しをベッドに置いて、
「それじゃあね、黒いサンタクロースさん」
そう言って、瞬きの間に消えたのだった。
※※※
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