第3話:不遇スキル「練習モード」
「隙だらけだぜ?」
俺はふらりとゴブリンに近づいて、拳を放った。
「くたばれ、くそオーナー!」
「ごぶぶっ?!
腹をアッパー気味に打たれ、体の跳ね上がったゴブリンが落ちる前に回し蹴りをお見舞いした。 ゴブリンは吹っ飛び、そして光となって消えていく。
「練習オーク一体」
そして俺の言葉に反応して、目の前に豚面の怪物が現れた。
「ぶひぶひ」
「ゴブリンの鳴き声はゴブなのに、どうしてオークは豚みたいなんだろうな?」
「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「ま、どうでも良いか。 武器、長剣」
差し出した手のひらに出現した西洋剣を、俺は道楽のように回して突撃してくるオークを迎え撃つ。 オークはその巨体が武器だ。
冒険者ギルドの資料によれば、その巨体が繰り出す衝撃は時速100キロの車と同じらしい。
「だけど当たらなきゃいいって話」
力は強いが技術はおざなり、冷静に見極めればオークの攻撃なんぞ簡単に避けられる。 俺は最小限の動きでかわし、すれ違いざまに剣を振るった。
「ぶあっ」
「はい、終了。 よし、鈍ってないな」
オークの体は上下に別れ、光となって消えた。
まだまだ準備運動だ。 息は上がっていない。
「よし、次!」
俺のスキルは練習モード。
その名の通り、疑似空間でモンスターとの戦闘を練習できるスキルだ。
攻撃できるわけでも、仲間を癒すことも出来ない。 しかし一見悪くないスキルにも思える。
俺も初めはそう思った。 もしもここに出勉するモンスターが現実のそれと同等の力を有していれば、使えるスキルだと。
しかしこのスキルはゴミだ。
ここのモンスターは実際のそれより数段弱体化している。 俺は過去、このスキルによって自分は強いと勘違いして大きな失敗をして、そのことに気が付いた。
「やっぱ拳で殴るのが一番いいわ」
俺はそう言ながらモンスターを絶妙な加減で、生かさず殺さずサンドバックにする。
このスキルは冒険者としては使えないという他ない。 しかし日々のストレス発散に大いに役に立つ。 むしろそれくらしか意味がない。
ここは疑似的空間であり、明瞭な感覚で行われるイメージトレーニングのようなものだ。 故にいくら剣を振るおうが、走ろうが、現実の身体能力は向上しない。
「ああ、楽しい」
ここにいるときだけ俺は最強だ。
モンスターの断末魔が俺を酔わせる。
戦闘狂である自覚はある。 しかし現実がくそすぎて、まともな精神では生きていけないのだ。 俺は逆境でも折れない主人公じゃない。 明確な目的を以って生きる夢追い人でもない。
ただの弱い人間だ。
だから俺は、
「あははははは」
モンスターを殺しながら嗤うのだ。
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