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第26話:傷/世界回帰教




***



「よっ」

「ノックくらいしたら?」


 ふらりといきなり病室に入ってきたシスターを夜子はたしなめた。


「私たちの間でノックなんている?」

「親しき間に礼儀あり、でしょ」

「はいはい。 あ、メロンあるじゃん」


 シスターは適当に返事をすると、聖の持ってきたお見合いから果物を取り出して勝手に切り分ける。 夜子は彼女の自由な行動を止めることは諦めたのか、何も言わずため息を吐いた。


「君、調子どうなの?」

「まだ痛いし、動かないよ。 こんなこと初めてだから思ったより深くて、びっくり」

「びっくりって……」


 シスターは夜子の服の裾をめくりあげる。 その綺麗な腹には大きくな十字傷が刻まれていた。

 一つは古傷、もう一つは真新しく痛々しい。


「こっちがびっくりだよ……狂ってるよね」

「悪くない手だと思ったんだ。 その時は色々と一杯一杯でさ」

「それはすまん」

「いいよ、メロン食べたい」

「はいはい、あーん」


 二人のやり取りは気安く、端から見ればまるで姉妹のように見えただろう。


 しかし二人は姉妹ではないが、遠からずな関係ではあった。 それは誰にも知られてはならない、二人だけの秘密だ。


「それにさ、私が嘘を吐くわけにはいかないから」


 夜子はメロンで頬を濡らしながら、真剣な表情をして言った。


「まあ、好きにしたらいいよ。 私はあいつ嫌いだけど」

「うん、好きにするよ」

「あっそ、じゃあ私は今日もはりきって布教活動してきますよっと」


 シスターはそう言うと、瞬きの間に姿を消した。


「さて私はお礼メールでも打とうかな……」


 聖の置いていった名刺に記載されていたアドレスにメールを送るべく、夜子は延々と文面に頭を悩ませるのであった。



***



『世界をあるべき姿へ』


 都内の雑居ビルが立ち並ぶ一角に、世界回帰教の教会はあった。


「あの見学で来たんですが」

「ああ! ようこそ世界回帰教へ! どうぞ、こちらへ!」


 そのビルではそこそこの人が出入りしているが、想像よりも普通そうな見た目の人が多い印象だ。


「まず我々に信ずる教祖などはおりません」


「我々の目的はたった一つ」


「二年前から可笑しくなった、世界を元の姿に戻すことです」


 案内を聞いていると、宗教というよりは社会団体と言った感じに思えた。


 曰く、この世界を元に戻すためならば方法は問わないようだ。 とはいえ分かりやすい方法は二つしかない。


 一つは全てのダンジョンを攻略してしまえばいい。

 そうすればスキルは残るかもしれないが、そもそも人々が戦う必要がなくなるのでスキルによる優位性がなくなるためだ。


 もう一つは全てのスキルを奪うこと。 そうすればダンジョンを攻略しなくとも、世界回帰教がギルドに代わって管理すればいい。 ダンジョンの恩恵は受けつつも、限りなく元の世界に近い社会を作ろことができるだろう。


「どうですか? 素晴らしいでしょう?」


 そう言って微笑む信者の瞳は暗い光を放っていた。 狂気ではなく、恨み辛みにより闇を感じる。


 俺、個人で言えば世界が元に戻って困ることはない。


 けれど世界回帰教がスキルを全て奪う方法を取った場合、それは世界回帰教に力が集中して、今の世界より酷くなる未来しか見えない。


 今までスキルの恩恵を受けていた者と、受けていないものが入れ替わるだけにしか思えなかった。



***



[世界回帰教について語るスレ]


名無しの信者:

ダンジョンもスキルもない世界に戻すとか掲げてるけど、そのうち冒険者ギルドが取り締まったりするんだろうか


名無しの信者:

いやいや、実際何か行動を起こすわけじゃなくて、ただ弱者が集まって騒いでるだけだろ


名無しの信者:

無能スキル持ちが傷を舐め合ってるだけ


名無しの信者:

黒いサンタクロースが信者だったら?


名無しの信者:

それはヤバイ


名無しの信者:

もしそうならスキルを全て奪った上で、ダンジョンを攻略すれば叶うかも?

だけど一人じゃ、現実的に無理じゃね?


名無しの信者:

じゃあ黒サンタがスキルを譲渡するスキルを持ってたら?


名無しの信者:

現在会員数、約三千人程度らしい

全員が有用なスキルを与えられて、本気で動いたら実現するかもに

会員数右肩上がりみたいだし


名無しの信者:

まあ俺は無能スキル持ちの引きこもりなんでどっちでも関係ないから


名無しの信者:

俺は困るぞ

スキルしかとり得ないのに、それがなくなったらどうやって婚活していけばいいんだ


名無しの信者:

頑張って給料上げて、ダイエットするしかないな


名無しの信者:

もう満員電車で毎日揺られる生活に戻れる気がしない


名無しの信者:

右に同じく


名無しの信者:

左に同じく


名無しの信者:

まあまだ焦ることないでしょ

その時になったら勝ち目のある方に付けば大丈夫大丈夫


名無しの信者:

さて、世界に変革を起こせるのか楽しみだな


名無しの信者:

高みの見物すぎて草


名無しの信者:

これから世界は真実を知る


名無しの信者:

そして絶望する


名無しの信者:

現実で鬱展開はやめてほしいwww


名無しの信者:

世界は光に包まれた



***









読んでいただきありがとうございます!


面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆ポイントを付けてくださると大変嬉しいです!


続きが気になる方は、ブックマークをお忘れなく!


なお批判・批評は大歓迎です!

お待ちしております(ニッコリ

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