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第16話:狂気






 未だ深夜、井の頭公園は月の光で照らされていて薄明るい。


 湖の周囲だけはライトが設置されているため、昼間のように明るかった。


「ではこちらの道具をお使いください」


 そう言って渡されたのはマウスピースのような魔道具だった。 それを付ければ水中でも呼吸が可能になるようだ。


 とはいえ最大の問題は水中では動きが制限されるという点だろう。


「んじゃ、行くぜ」


 強面の男や他の冒険者は平然と入水した。


(こいつら怖くないのかよ……)


 俺はそこの見えない海に入るような恐怖を感じて、入ることをためらってしまう。


「怯える必要なんてありませんよ」


 腰まで水に浸かった夜子が振り返ってほほ笑んだ。


「ゲームみたいなもんです。 ドロップを落とす雑魚NPCに怖がるプレイヤーはいないでしょう?」

「……そうですね。 ありがとう」


 頷いたものの俺には彼女の言っていることが全く腑に落ちていなかった。

 俺はそんな風に割り切れない。

  田中が兼業を勧めた理由がなんとなくわかった気がした――今まで戦いとは無縁の生活をしていた人間が急に戦い漬けの生活を送れるだろうか――否。 それは日本人の戦わないという精神を一度壊す――狂わなければできないことだ。


「メンタル的にはまだまだ1級だな……っ」


 強いだけでは冒険者は務まらないのだろう。


 それでも依頼を受けた以上、ここで待っているわけにはいかない。 俺は意を決して、湖へと潜っていくのだった。







(この道具はすごいな)


 水中は濁っていて、視界が悪い。


 見失わないように俺は夜子へ必死についていく。


(というかこんなに深かったのか……?)


 湖を下へ下へ潜っていく。


 そして先の方で赤い光が爆発した。


(モンスター!)


 光に照らされたのは半人半漁の姿をしたモンスターの群れと、戦う冒険者たちだった。


 資料にあったサハギンというモンスターは戦闘力でいえば、水棲のゴブリンといった程度らしい。 しかし冒険者たちは慣れない水中、動きは鈍るし、能力も制限されているのか劣勢となっている。


(だから調査も失敗したんだな)


 撤退すべき――とは思わなかった。 なぜなら俺にとってこの状況は、前に散々練習したからだ。


 夜子に三体のモンスターが群がった。


(さて準備運動と行きますか)


 俺は纏っている装備を全てアイテムボックスへしまうと、水を強く蹴るのであった。






 

読んでいただきありがとうございます!


面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆ポイントを付けてくださると大変嬉しいです!


なお批判・批評は大歓迎です!

お待ちしております(ニッコリ

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