第13話:週末冒険者
「ああ、休みなのにいつもの時間に目が覚めてしまう。 これが社畜ってやつか……」
朝、目が覚めたが外はまだ薄暗い。
もう一度眠ろうと試みるが、髄にまで染みついた社畜本能が「出勤だ! 支度せよ!」と精神を覚醒させる。
貯金をつぎ込んで購入した冒険者装備を着こみ、新たに手に入れた耳飾りを着けた。
『オール・レゲイエの耳飾り:幻影魔法が付与された傘の形をしたイヤリング。 使用者を認識できても、他者の記憶には残らない。 まるで夢のように』
「うん、一気に個性的になったな」
この方、装飾品などほとんどつけたことがなかったので、なんだか気恥ずかしい。
しかしこの耳飾りの効果は、死蔵するには惜しすぎた。
俺は職場である店の近くに住んでいる。
そしてダンジョンもまた近所なので、自転車をこいでダンジョンへ向かった。
冒険者という職業が社会的地位を得ているとはいえ、この耳飾りがなければさすがに恥ずかしい想いをしたかもしれない。
「攻略の報酬と思うと微妙だけど、使える使える」
ダンジョンに近づくと、昔はなかった商店街が見えてきた。
そこには冒険者が利用するような店が軒を連ねている。
冒険者の朝は早いのか、すでに店が開き客も入り始めている。
しかしそれに俺は見向きもせず、ダンジョンへ向かう。
俺にとって今日は割と大事な日になるだろう――
――俺が自身の強さを確かめることができれば、
――過去のトラウマを克服できるかもしれない、
ーー人生をリスタートさせる日になるかもしれないのだから。
○
「え、やっぱ俺強くね?」
俺は早朝からダンジョンで戦い続け、20階層ほど駆け抜けたところで確信した。
ならば過去のあの出来事は何だったのか、思い出しみればそのヒントは田中の言葉にあった――特別に強いモンスターが出現するダンジョンは存在する、と――つまり俺は初めてのダンジョン探索で運悪くそれを引いてしまったということになる。
「うわぁ、さすが運Dだな。 その頃はもっと低かったんだろうし」
ならば今まで調子に乗るべからずとキツイ職場で耐え続けていたことは、無意味だったと思うと空しくなる。
「まあ過去を悔やんでも仕方ない、仕方ない」
ヒナや他のバイト連中、良いお客様など素晴らしい出会いがあった。 それにきっとそのうちやってて良かったと思える瞬間があるはずだ。
「人生に無駄なことはない、うん」
俺は適当に苛立ちをあしらって、帰路についた。
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