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私の婚約者が七つ年下の幼馴染に変わったら、親友が王子様と婚約しました。  作者: 橘ハルシ
最終章 イザベル 後編

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48、街でデート2


 「パット?」

 

 なんで彼が消えちゃうの?まさか話が長くて嫌になった?・・・いや、それはないわ。もっと長い時も待っていてくれたもの。大きくなって気が短くなった?そんなまさか。

 

 「パトリック様なら外で花を見ておられますよ。」

 

 私がパットを探していることに気がついた店長がそう教えてくれ、私はホッとして扉を開けて外へ出た。

 

 この店は表で切り花も扱っている。そろそろ初夏のこの季節、店先は華やかな色でいっぱいだ。

 

 パットは鋏を持って作業中の店員と楽しそうにお喋りしながら花の匂いをかいでいた。

 

 何をしても腹が立つほど絵になるわね!

 

 「あ、イザベル!終わった?」

 

 私に気がついた彼が走り寄ってきて、すっと私の頭に手を伸ばした。右耳の上の方で冷たい感触と共にカサ、と音がする。

 

 「俺は触れてないからね!ああ、やっぱりよく似合う。イザベル、かわいい。」

 

 かわいい?!何をしたの?

 

 急いで頭に手をやって探ろうとすれば、パットが慌てて止めた。

 

 「イザベル、崩れちゃうから手鏡で見て。」

 

 一体何なの?!と怒りすら覚えて雑に鞄から手鏡を出して見れば、編んでくるりと頭に巻いた茶の髪に白い小さな花束が挿してあった。

 同時に漂ってきた香りに怒りが溶けてゆく。

 

 「いい匂い・・・これはジャスミン?」

 

 大きく息を吸って香りを楽しみながら尋ねれば、彼は嬉しそうな声で説明してくれた。

 

 「そう、当たり!もう花が終わりで剪定中なんだって。イザベルに似合うと思ってもらっちゃった。」

 

 そういえばこの店の窓辺にはジャスミンが生えていたっけ。春になるといい匂いに包まれていた。

 

 パットと出掛けると事件だなんだと巻き込まれることが多くて、私は落として壊したり失くしたりしないよう髪飾りを付けなくなった。だから今日も髪には飾りをつけていない。

 

 生花ならいつかは枯れるのだから、失くしても落ち込まずに済むかな。

 それに男の人に髪に花を飾ってもらうって、ものすごくときめく状況じゃない?

 

 思わず私の顔が綻び、パットもホッとしたように表情を緩めた。

 

 「イザベルに喜んでもらえて良かった。ねえ、花言葉って知ってる?」

 「花言葉・・・?知らないわ、そんなものがあるのね。」

 「あるんだって。俺もさっき初めて知ったんだけどね。」

 「ジャスミンの花言葉は何なの?」

 「『愛らしさ』『幸福』などだって。俺、愛らしい貴方のことを幸福にするからね。」

 「あ、ありがとう・・・」

 

 ボッと音がしたんじゃないかという勢いで私の全身が赤くなった。

 

 今まともに彼の顔を見たら、発熱する!

 

 私は彼の靴先を見ながら礼を述べて、そそくさと歩き出した。

 

 顔が熱い。手も熱い。なんでパットは私にあんな台詞を吐けるのだろう。

 

 

 

 「・・・ジャスミンの花言葉って他にもあったわよねえ。」

 「店長、いつの間に?!ええ、まあ、実はパトリック様にジャスミンは『あなたは私のもの』っていう花言葉もあるんですよ、ちょっと怖いですよねって話をした途端、目を輝かされまして・・・。」

 「イザベル様の髪に飾った、と・・・」

 「イザベル様、大丈夫ですかね。」

 「どうかしらねえ。」

 

 店先で二人を見送った店長達は遠い目をした。

 

 

 ■■

 

 

 「イザベル、大丈夫?」

 「あんまり、大丈夫じゃない・・・」

 

 私は疲労困憊のあまり、街角のベンチに座り込んでいた。

 

 パットと出掛けるのが久しぶりすぎて、小さなハプニングが続くことに疲れ果ててしまったのだ。

 

 「猫の喧嘩に巻き込まれ、犬に追いかけられ、カラスに鞄を狙われ、ネズミに躓く。頭上の窓から鉢が降ってきて、間違って水をかけられそうになるなんて。さすがに、もうないわよね?」

 

 昔はこれくらい平気だったのに。留学中にテオと二人で街を歩いた時は何も起こらなかったから油断してた。この二年で私のカンも相当鈍ったってことかしら。

 そうか、パットだけでなく私も変わっているのね。

 

 「ごめんなさい、パット。少し休ませて。」

 

 片手で額を覆って頼めば、申し訳なさそうな顔で彼が頷いた。

 

 「何か飲み物を買ってくるよ。イザベルはここから動かないで待ってて。」

 

 私はコクリと頭を縦に振って目を閉じた。髪からジャスミンのいい香りが漂ってきて、私はほうっと息をつく。

 

 パットが戻るまでに元気にならなくちゃ。これは彼の体質なのだから私が慣れないといけない。しかも、全て彼が防いで守ってくれて、私は何の被害にも遭っていないのだから。

 

 私は自分の頬を軽く叩いて気合を入れた。

 

 「あのう、すみません。ちょっといいですか?」

 「はい?」

 

 突然声を掛けられて私は目を開けた。まず、かわいい小花柄のスカートが目に入ってどこかで見たような、と目線を上げれば、先程本屋でパットに話しかけていた二人組の女の子達だった。

 

 「あの人の婚約者なんですよね?」

 「ええ、まあ。」

 

 もうパット本人がそう言っているのだから否定するわけにいかない。私は目を逸らしつつ頷いた。すると彼女達が勢いづいた。

 

 「あの人は貧乏で、貴方がお金で無理やり婚約者にしたんですよね?そんなことをして恥ずかしくないんですか?!それに格好良いからって見せびらかすように連れ歩いてこき使って、かわいそうです。お願いです、今すぐ婚約破棄して自由にしてあげてください!」

 

 「は・・・?」

 

 私はぽかんと口を開けて思い込みの激し過ぎる彼女達の顔を見つめ返した。

 

 何、この理解不能な会話。それって貴方達の勝手な想像よね?私もパットも一度だってそんなこと言ってないって分かってる?

 

 あまりのバカバカしさに相手をするのが嫌になって、私はベンチから立ち上がり彼女達から離れようとした。その瞬間。

 

 「私達がこんなにお願いしているのに、無視するなんて酷い!」

 

 ドンッ

 

 背中を押され、私の身体は走ってきた馬車の前に飛び出した。

 

 凄い!走っている馬を真正面から見るのは初めてだわ。勢いがあって格好良い!

 いや、そうじゃなくて、これって私死ぬの?それは困るわ。私はまだやりたいことがたくさんあるし、何よりこんな形で死んだらパットが自分を責めてしまう。それだけは嫌だ。

 

 だけど、もう私は体勢を立て直すことが出来ず、そのまま倒れ込んでいった。

 

 「イザベル!!」

 

 バシャッという音と共に腰を強く引かれ、私は間一髪、歩道に連れ戻された。

 

 私、生きてる?

 

 顔の前に両手を広げて開いたり閉じたりしてみれば動いた。無事、みたい。

 

 呆然としている私の後ろから荒い息が聞こえてきて、振り返れば予想通りパットがいた。

 真っ青を通り越して蒼白になっている彼の腕はしっかりと私の腰に回されたままで、私と彼は石畳の路上に座り込んでいた。

 

 「イザベル、無事?怪我はない?」

 

 少し震える声で尋ねてきた彼の方を向いて、私は笑顔で頷いた。

 

 「ええ、貴方のおかげでかすり傷一つないわ。助けてくれてありがとう。」

 「良かった。俺、貴方が突き飛ばされたのを見て心臓が凍ったよ。」

 

 そう言って今だけ許して、とパットがぎゅっと私を抱きしめた。私を大きく包み込むその温もりに何故か泣きそうになる。

 

 彼は小さな頃からずっと、こうやって私を助けてくれていた。そこは変わっていない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


勝手な決めつけでここまで動ける人は怖い。

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