表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の婚約者が七つ年下の幼馴染に変わったら、親友が王子様と婚約しました。  作者: 橘ハルシ
第二章 ノア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/56

36、真偽


 一週間後、転居のため数日休んで登園した私は放課後に廊下で知らない男性から声を掛けられた。

 黒髪黒目の背の高いその男性は、私と目が合うと人懐っこい笑みを浮かべて手を広げ近づいてきた。

 

 「初めまして、一昨日から帝国語の講師になったディーノです。・・・アレ、貴方とは何処かで会った気がするなあ?あ、昔、子供の頃街で会ったお菓子を落とした子!」

 

 この変な時期にやってきた新任の講師は片手を差し出しながらそうぶちかました。

 

 「あら、ではこの方がノア様の初恋のお相手じゃない?よかったわねえ!これでクラウス王子殿下共々、初恋のお相手と結婚出来るじゃない。」

 「まあ、素敵ね〜」

 「こんなの奇跡ね!おめでとう、ノア様。」

 

 先日、初恋の話になった時にポロリと自分のことを話していたのが不味かった。一瞬でその場にいた令嬢達がどよめいて私と講師を取り囲んで、諸々一足飛びに結婚させようとしてきた。

 

 ちょっと待て、初恋の相手かもしれないが、全く知らない相手だぞ?!結婚なんてあるか!それに。

 

 「私とクラウス王子殿下はまだ婚約中だし、私は初恋の相手と結婚したいと言ったことは一度もない。」

 

 興奮している彼女達には言っても無駄だと思いながら、一応冷静に現実を伝えておく。

 

 内心、なんだこの茶番はとぼやきつつ突如として現れた私の初恋の相手という男の人を眺める。

 

 あの男の子は帝国の人だったのか?

 それではどれだけさがしても、見つからないはずだ・・・でも、あの時の男の子に帝国訛りは無かったはず。あれば記憶に残っているだろう。

 

 それと外見だ。私と同じ黒髪、黒い目だっただろうか?髪が黒かったのは覚えているが、こんなにくせ毛だったか?瞳の色は何故か記憶から消えているんだ。自分と同じ色彩だったら覚えていそうな気がするのだが・・・。

 

 それにしても驚くだけで、全くときめいたりしないのは私の中で完全に初恋が終わっているということなんだろうな。

 

 私はひとり頷いて、この騒ぎを収めるべく口を開いた。

 

 「皆、先生のお邪魔をしてはいけない。私の初恋なんてどうでもいいから、もう帰ったほうがいい・・・」

 「まあ、ノア様!ご自分の大事な思い出をどうでもいいなんてダメですわ!」

 

 横にいたペトロネラが大袈裟に叫んで私を講師の方へ押し出した。

 

 「何をするっ・・・!」

 

 思いっきりたたらを踏んだ私は彼女の思惑通り講師の元に飛び出した。彼はとっさ私の腕を掴んで転ばないように支えてくれる。

 

 「大丈夫かな?」

 「失礼しました!」

 

 私が急いで体勢を立て直そうとしたところで、肩に手を回されその場から連れ出された。

 

 「先生?!」

 「大騒ぎだなあ。ここは二人で逃げよう。」

 

 慌てて見上げた私ヘ彼は片目を瞑って、小さく笑う。

 

 「いや、それは余計に彼女達を煽るだけではないですか?」

 「ナニ、当事者の俺達がこうして居なくなることが、騒ぎを収めるのに一番手っ取り早い手段さ。」


 そう言いながらグイグイ背を押されて私は講師と強制的にその場から立ち去る羽目になった。

 

 

 彼女達の目がなくなったところで私は講師から離れて向きあった。

 

 「先生、ありがとうございました。」

 「もう少し遠くに逃げたほうがよくないか?」

 「いえ、これ以上は結構です。私も婚約者がおりますので。ええと、それから・・・」

 

 そこで言葉を切って私は彼の目をしっかり見た。

 

 「小さい頃に落としたおやつの代わりを頂き、ありがとうございました。会えたらあの時のお礼を言いたいと思っていたのです。別れたときにちゃんと言ったか覚えていなかったので。」

 

 私が深々と腰を折れば相手はなんだか面倒そうに後頭部をかいた。

 

 「それは昔の話だからもういいし。それより、女嫌いの王子に男の格好してるから利用されてるだけって話を聞いたけど、それでいいと思ってんのか?俺を利用して婚約を破棄してもいいんだぜ?」

 

 ん?思ったより雑な話し方をするのだな。あの男の子はもっと丁寧で上品な言葉遣いをしていた気がするのだが、これも私の記憶違いなのだろうか?

 

 複雑な気持ちになりつつ、きっぱりと断る。

 

 「いえ、私もその、婚約相手を好きですので破棄など全く考えておりません。」

 「それって初めて女扱いされて舞い上がって好きだと錯覚してるだけじゃないのか?」

 

 なんというか、言っている内容が大変失礼なのだが?!私だってクラウスからの婚約の申し込みを喜んでポンと受け入れたわけではない。

 断ろうとして無理で、好きになれるか散々悩んで気がついたら恋に落ちていたのだから、錯覚などではないはずだ。

 

 目の前の人は昔々にちょっぴり世話になった初恋の男性かもしれないが、だからといってそんなことを言う権利はないと思う。

 

 「それを貴方に答える必要があるとは思いません。これで失礼します。」

 

 私はムスッとして答え、同時に踵を返してそこから走り去った。

 

 

 次の日、登園した私にあちこちから好奇の目が向けられた。一晩で私は初恋相手(仮)のディーノ講師と愛の逃避行をしたことになっていたのだ。

 

 今まで噂になったものを拾い集めて真偽を確かめていたから、広まらないようにするとか噂になる前に消すなどということは考えたことがなかった。おかげで今私は窮地に陥っている。

 

 「おはよう、ノア嬢。朝から大変な騒ぎだけど貴方は一体何をやったの?」

 

 不機嫌さ全開で声を掛けてきたユリアン王子に私は諦めとともに噂を伝える。

 

 「新しくきたディーノ講師は私の初恋相手で、昨日一緒に愛の逃避行をしたそうです。」

 「それは聞いた。で、真相は?」

 「いきなり初恋相手と仄めかされ、それを聞いたご令嬢達が興奮しまして。宥めるつもりが突き飛ばされ、講師に助けられたついでに一緒に数メートル逃げて別れただけなんですが。」

 「ふうん。で、本当に初恋相手なわけ?」

 

 そこで私は答えられず言葉に詰まった。その様子をじっとりと見た王子が続けた。

 

 「じゃあ、その男に好意は抱いた?」

 

 それに対して私は頭を千切れんばかりに横に振った。

 

 「それはないです。どちらかというと違和感しかなくて・・・。やはり、幼い頃の記憶というのはいい加減で当てにならないものなのですね。」

 

 情けないと項垂れた私へ、王子が真剣な面持ちでささやいてきた。

 

 「その違和感は、大切にしたほうがいいよ。貴方と兄上、それぞれの初恋話がものすごい速さで広まって気持ち悪いなと思っていたところに都合よく現れたんだ、その男は騙りかもしれない。」

 

 「偽物?それなら逆にしっくりきますね。なるほど、目的はなんだろう?」

 「決まってる。兄上とノア嬢の婚約を潰したいんだろう。ムダな足掻きをする奴がいたものだ。」

 「ということはクラウス殿下の初恋相手発見の噂も・・・」

 「十中八九、デマだね。」

 

 ユリアン王子が言い切ったことで私の心がフッと軽くなった。

 

 「何笑ってるんだよ。いいかい、今ここにいるのはノア嬢だけだ。ということは標的は貴方だよ。怪しい男が学園内に入り込んだんだ、内部でも護衛をつけるなりして用心したほうがいい。もうすぐ兄上が帰って来るから敵には時間がないんだ、強行手段をとってくる可能性が高い。・・・そういえばいつも一緒のイザベル嬢は?」

 

 王子は真面目な顔で言いながら、ふと周囲を見回した。私は緩く首を振って答えた。

 

 「イザベルは昨日風邪を引いて休んでいましたから、今日も来るかは分かりませんね。」

 「この大事な時に!」

 「イザベルとはそんなことのために一緒にいるのではないので。」

 

 私は逆にイザベルを巻き込まずに済んでよかったと思っている。だが、そうは思っていないユリアン王子はもう、と地団駄を踏んだ。

 

 「それでも、だよ!いい?身辺には十分気をつけてよ、何かあったら僕が兄上に怒られるんだから。」

 「承知してます。一人にならないようにしますよ。」

 「絶対だよ?!放課後に教室へ迎えに行くから動かないで待っててよ?」

 「分かりました。」

 

 私はユリアン王子が来てくれるなら安心だと頷いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


噂ほど怖いものはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ