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3、婚約者と妹は戦う、そこに父


 14:50頃 ゲラルトより婚約破棄される

 15:20頃 パットと新たに婚約する

 

 その後、ゲラルトを店外に放り出し、店に弁償等後始末をしてから17:00に帰宅

 

 「それで、どうしてもう、お父様までご存知なの?!」

 「だってイザベル!十六時過ぎにはハーフェルト公爵が直々に俺の所に来て、お前とパトリック君の婚約の書類にサインを求められていたんだ。」

 「なんですって?!・・・テオね!」

 「そうでしょうね。テオは父親の抜け目がないところをしっかり受け継いでいるもの。それにしても、貴方もついにパットに捕まっちゃったのねえ。」

 

 全ての後始末を終えて、自邸に戻ったイザベルが目にしたのは、パニックになっている父親と諦めの笑いを浮かべた母親だった。

 

 ゲラルトが一方的に婚約を破棄してきたこともしっかり伝わっていて、両親共にあんな奴はこちらから願い下げだ!と怒っていた。

 

 その後、告げられた新たな婚約の話に驚愕したのはイザベルの方だった。

 二時間もたたないうちにあの面倒な手続きが完了しており(最初の婚約時は一週間掛かった)、パットとの婚約が正式なものになっているなんて誰が思うだろう。

 

 

 「お姉様!大丈夫?ゲラルトに乱暴されて婚約破棄されたってパットが・・・!」

 

 そこへ妹のクラリッサが玄関の扉を開け放って飛び込んで来た。五つ年下のこの妹は、姉への愛が重かった。

 

 妹の誤解を招きかねないその台詞に、両親が青ざめる。

 

 「クラリッサ!乱暴なんて大げさよ。ちょっと襟首掴まれただけで・・・」

 「それだけじゃなくて突き飛ばされもしたよね。」

 

 慌てて否定しようとしたイザベルは続いた声に耳を疑う。振り返れば、すまなさそうな顔をしたパットがクラリッサの隣にいた。

 

 「パット・・・?なんでここに?!」

 「イザベルは門までで良いって別れたけど、俺もちゃんとご両親にご挨拶しときたいと思ってて。でもイザベルに嫌がられたらどうしようと門前で悩んでたら、クラリッサに会ってここに連れてこられた。」

 「当たり前じゃない。パットがお姉様と婚約したとか言うから!・・・お姉様、本当なの?」

 「それは本当。」

 

 あっさりと肯定したイザベルを穴が開くほど見つめたクラリッサは次の瞬間、隣のパットの両頬をつねり上げた。

 

 「ええい、パット!どんな悪どい手段でお姉様を落としたの!貴方が義兄なんて嫌!」

 「痛い!だから、俺はクラリッサの義弟でいいよって言ったじゃないか。」

 「そういう問題じゃなーい!」

 「えええ。」

 

 妹のクラリッサはパットのニつ上で、姉が好き過ぎて昔から彼とイザベルを取り合う仲だ。

 もはや彼らのライフワークといってもいいレベルで会う度にこうやって戦っている。

 

 「イザベル。ゲラルト・ヴィスワに他には何をされた?」

 

 わーわーとじゃれあっているちびっこ達の後ろから、ごごごっという地響きと共に父のヴェーザー伯爵の重低音が聞こえてきた。

 

 騒いでいた二人はぴたっと動きを止め、揃って横の巨人を見上げた。

 

 怒りに満ちた伯爵に、パットだけでなく娘のクラリッサも固まる。

 

 「あの男、一方的な婚約破棄にとどまらず、俺の大事な娘に手をあげるとは、絶対に許さん!アレクシア、至急抗議の文書を送ろう。」

 「もちろん!うちをコケにしたことを後悔して頂きましょう。抗議文書は宣戦布告よ、それだけなんかで済まさないんだから!」

 

 ゲラルトはヴェーザー伯爵夫妻の怒りを最大限にかってしまったようだった。

 

 そこで、急にパットが気合を入れてヴェーザー伯爵に宣言した。

 

 「あのう、俺、いや私は、これからイザベルの婚約者としてめちゃくちゃいっぱいがんばって、イザベルにふさわしい男になるのでよろしくお願いします!」

 

 一生懸命なその様子に伯爵も夫人のアレクシアも怒りが遠のき、ふわっと落ち着いた優しい笑みを浮かべた。

 

 「こちらこそイザベルをよろしく頼むよ、パトリック君。」

 「ええ、これまでの貴方の努力は知ってるわ。うちについて分からないことがあったら、いつでも聞いて頂戴ね。」

 「私は認めないわよーー!何よ、パットなんてお姉様をゲラルトから守ってくれなかったんじゃない!」

 

 クラリッサの指摘にパットが顔を曇らせた。

 

 「それは・・・ごめんなさい。」

 「何を言っているの、クラリッサ。パットは私をちゃんと守ってくれたわよ。小さいのにゲラルトに負けてないどころか、一瞬で倒しちゃったんだから。本当に驚いたわ。」

 「お姉様?!」

 

 パットの肩を持った姉を驚いたように見上げた妹にイザベルは微笑んで頷き返した。

 そのやりとりを見た夫妻も軽く目を見開き、ひそひそと二人で話し合う。

 

 『ギュンター様、イザベルがはっきりとパットを庇うのは珍しいわね。流されて婚約しただけかもと心配したけれど、案外上手くいくかもしれないわ。』

 『ああ。いつもはクラリッサとの中間をとって二人をなだめるだけなのにな。彼はいい子だから上手くいってほしいものだね。』

 

 パットの方はそんな雰囲気に気がつくことなく、『小さい』と言われたことにひっそりショックを受けていた。

 

 俺は本当にイザベルから婚約者として見てもらえているのだろうか・・・?

 

 いや、贅沢をいっちゃいけない。今はイザベルが婚約を受け入れてくれたことを感謝しなくては。これから自分が頑張って男として好きになってもらえばいいだけだ。

 そんなことより今は彼女の憂いを払う方が先だ。

 

 パットはふるっと首を振ってヴェーザー伯爵夫妻を真っ直ぐに見上げた。

 

 「ギュンターおじ様、アレクシアおば様。俺がイザベルの代わりに、ヴィスワ家とナイセ家から慰謝料とか取り立てるって約束したんだ。だから・・・」

 

 「いや、パトリック君。これは我がヴェーザー伯爵家が正式に重々に抗議すべき案件だ。どうしてもというなら、ハーフェルト公爵家は後ろにいてくれるだけでいい。それで最恐の脅しになる。」

 

 伯爵家当主からそうきっぱりと言われてしまえば、まだまだ子供のパットは受け入れるしかない。

 

 「分かりました。」


 イザベルのために何かしたかったんだけど、最強の脅しになれるならそれでよしとしよう。と心のうちで自分を納得させた彼は、最強と最恐の違いには気がついていなかった。

 

 

 パットはまだよく分かってないのだが、彼の父親は王太子補佐をしており次の宰相だ。しかも元王族のため、一言でいえば『貴族内で一番の権力者』である。

 

 しかも、度が過ぎる愛妻家で溺愛する妻の産んだ子供達へも大変な愛情を傾けている。

 彼らを守るためなら手段も選ばず権力行使も平気で行うので、パットが表だってイザベルのために動けば意図せず大事になるのが目に見えている。

 

 味方としては最強なのだが、と心の内で呟いたイザベルの父、ギュンター・ヴェーザー伯爵は、妻がハーフェルト公爵の愛妻と親友であることを利用して出世しようなどとは全く考えたことがない男だった。

 

 なのに、娘まで公爵の息子の婚約者となり、否が応でも今後周囲から色々嫌味や当てこすりを言われるであろう、とちょっとだけ胃が痛くなった。

 

 しかし、今までの婚約者には見せなかった身内へ向けるのと同じ、素の表情でパットと接する様子を見て、嫌味くらい愛する娘のため頑張って乗り越えよう、と密かに決意した。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


イザベルの父は胃薬常用者だと思われます。

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